ゴマ
ネックレスしてベロ出して

Aug.30,2001

昨夜遅くにスケジュールが決定して、今日が捕獲となった。場所は都心の四谷駅の裏の土手。こんな所にもいるのか・・・と思うような場所だ。保護主候補の方のお目当ては、4匹の弱って見える兄妹(?)猫だ。捕獲器は3台。しかし随分粘ったけれど、今夜は2匹しか捕まえられなかった。そのうちの1匹は、足とシッポにひどい怪我をしていた。根本から先まですっかり毛の禿げたシッポの真ん中から先は、すっぽりと血のコーティングをしているかのように真っ赤である。そして、絶えず鮮血が滴り落ちている。この子の様子が気掛かりなので、全員を捕獲出来るまでそこで長時間粘らず、捕獲器とスタッフ(保護主さんのお友達の事だが)を一人現場に残して、先ずは2匹だけ病院に運ぶ事にした。

四谷というのは保護主さんの勤務先である。住まいは高円寺。この後のケアの都合を考えたら家の近くの獣医さんにお願いする方が良いだろうという事で、四谷から高円寺まで搬送し、また四谷に戻る。都心の道は、靖国通りだろうが青梅街道だろうが、渋滞がそりゃあ酷いものだった。猫を乗せていると、尚更そう感じるのかも知れないが・・・。客を待つタクシーの行列は至る所で道を狭めているし、どうしてこんなにクルマが多いのだろう?と辟易しなから走らせていた。時間はどんどん過ぎて行く。しかも・・・だ!

獣医は前もってお願いしておいたので時間外まで開けて待っていてくれたのだが、院長が出掛けていたのでその奥さんらしき先生が事にあたった。1匹の元気がある方を捕獲器から洗濯袋に入れるのにたっぷりと30分、もう一人の獣医さんと押さえつけてエリザベスカラーを付けるのにまた手間取り、先ずは血液検査だと言うので採血は私とこうちゃんも手伝って押さえながらやっと済ませる。しかし注射器を奥に取りに行くと言ってはノロノロと行き来して、体温を測ると行っては体温計をまた取りに行く、カラーの縁を止めておくと言ってガムテープを切って持って来るから、テープ同士がくっついてしまって剥がせずまた取りに行く・・・。

とりあえずは2匹を置きに行っただけで、また四谷に戻ろうとしていると言うのに、もの凄く時間をロスしてしまった。しかも洗濯袋のままケージに入れて落ち着かせてくれたら良いのに、何より先に手際悪くカラーを付けたり採血したりするものだから、怯えてお漏らししてしまったじゃないか。だけど、そのお陰で血尿であるらしい事が判ったのだが。それにつけても私達の手がなければ何も出来ない事には次第に苛々して、私は言葉が尖って来る気がするし、こうちゃんの眉は段違いになっていた。これは怒っている証拠なのだ。

2時間以上も一人で番をしていた友人は、そのあたりのエサやりらしきオバサンに「三味線業者」だと疑われて罵られたり、事情を説明しても、ここには分担でエサやりがいるから、連れて行かれてはお爺さんの生き甲斐を奪うので困ると文句を言われたり、さんざんな目に遭っていたようだ。しかもエサを与えられてしまって、もはや今夜は幾ら根比べして待っても、とてもじゃないが捕獲器には入らないだろう。そもそも、そのオバサンが捕獲器に近づこうとする猫を「逃げなさい!」と逃がしていたらしいから、私がその場に残っていたら喧嘩になっていたかも知れない。(また真に受けている人もいるだろうな(笑))

来た道をトボトボと帰る。実歳にはクルマではあるが、疲れ果ててトボトボという感じなのだ。遠すぎるなあ・・・四谷と言ったら、東宮御所の隣だものなあ。しかも電車はうるさい、駅のチャイムはうるさい、幹線道路にも近いのでクルマの騒音はひどい、ついでに上智のイグナチオ教会の鐘はガンガンとしつこくうるさい。あんな騒々しい捕獲場所は初めてだった。しかし真っ暗になると、そういう場所に野良猫がいっぱいいる事が判ってきた。ニューオータニの調理人からエサを貰っている野良たちは太って毛艶も良いとか、そんな情報も入ってくる。

さて今回、どうしてそんな遠くまで「忙しい、忙しい」と毎日ブーたれている私が捕獲に行ったのか?それは、保護をしたいと言う方が、あまりに一生懸命で純粋で、しかもペット禁止のアパートながら、大型ケージを用意してでも一時預かりをすると言う覚悟を見せていたせいだ。尋けば猫たとの状態はかなり良くないと言うし、実際この目で見てもかなりの怪我と、膿の混ざった目やにがドロドロに流れ出していて、猫風邪をこじらせているのが判る。人を警戒しているから捕獲器でなければ捕まらないだろうし、クルマも無いとなれば、つい行ってあげたくもなるじゃない。あんな酷い状態の尻尾は、生まれて初めて見た。兎に角元気になって去勢が済むまでは(実際に捕まえてみたら、結構大きい猫なのだ)、《猫の手倶楽部》で支援してあげたいと思っている。

たった今、保護主さんからメールが届いた。ご了解の上で、一部分を引用させて戴く。

   今日は大変お世話になりました。
川口さんご夫婦の協力がなければ、私はまだひとり悶々と悩んでいたはずです。本当にありがとうございます。

実際に野良猫の捕獲というものをやってみて現実の厳しさ、様々な考えを持って猫に接している人々がいるということ、自分が目の前にしている問題が氷山の一角にすぎないこと、様々なことを痛感した一日でした。

自分が良かれと思って行動したことが本当に正しいことであったのか、迷いが生じたのは事実です。色々な現実が押し寄せてきて、つぶれそうでした。帰り際などはそのことばかり考えていて、ろくにあいさつも出来なかったこと、申し訳なく思っています。

先ほどまでずっと思い悩み、**さんとも話し合いをしていました。それで、やっぱり、あの四匹の子たちだけは、せめて治療、去勢まではもっていってあげたいと思いました。今日、二匹しか捕獲できなかったこと、あとの二匹が捕獲器では捕獲困難だということ、かなり不安はありますが、冷静に考えて予定を立てていきたいと思います。沈んでばかり、いられませんよね。大丈夫です。

まず、現実的に考えて、二匹の治療をしながらあとの二匹を捕獲、というのは私には荷が重過ぎます。ですので、餌やりを続けつつ、チャンスがあれば捕獲するつもりで、黒二匹の治療に専念したいと思います。餌を独り占めする二匹がいなくなったので、以前よりはマシかな?と思うことで、自分を納得させました。

とりあえず、禿げ尻尾の子を捕獲できたことで今日の結果はよしと考えたいと思います。

黒の二匹が回復して見通しがつく頃までにはもう少し残りの子達と仲良くなっておきたいです。それで何とか捕獲できれば、と考えています。命が間に合わなかった時のことを考えると急ぎたい気持ちはありますが、焦って自爆するより今は冷静な判断と計画が私には必要です。

明日、猫たちの経過がわかりましたら、またメールいたします。

彼女は若く、とても真面目で繊細な心遣いの出来る女性に思える人だ。やはり、その人柄に心を動かされたと言えるのだろうなぁ・・・今度も。自分が泥にまみれてでも保護するという覚悟と、行動を起こすまでの熟慮と決断も素晴らしかった。やっぱり人間て「歳」では判断出来ないし、若い人達の純粋で誠実さに裏付けされた情熱みたいなものに触れると、人間も捨てたものではないと思えてくるから、そう思える事は幸せなのだ。しかし私は年だ!強行軍は疲れる!


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