マルコ

ミステリータッチ

Aug.12,2003
少し前にオシッコが出なくて具合悪かった時に、買っておいたままだったトレヴェニアンの『バスク 真夏の死』を一気に読んだ。サイコミステリーとしてのドラマの内容より、登場人物の性格描写と捻りの効いた会話が大変面白かった。作者の碩学ぶりが窺え、しかもそれが文体を通してではなく脇役(とりわけカーチャの双子の弟ポール・トレヴィルと、ドクター・グロー)に語らせる事によってのみ行われる。それは単なる知識のひけらかしで終わらず、登場人物の性格描写に効果的であり、大人の知識人である作家の横顔を垣間見せていて大変面白かった。

同じ作家の『シブミ』は、導入部があまりにスパイ映画的で趣味に合わず、ちょっと入って行き難かったのだが、辛抱強く先を読み進めていくと、若くてロマンチストな主人公の回想による恋愛小説仕立てであった『バスク・・・』よりも、タイトルの示す通り「シブミ(渋み)」があって宜しい。こちらもまた、登場人物の魅力に負うものが大きい。

こちらの主人公ニコライ・ヘルは、プロシア貴族の血を引く誇り高い私生児で、少年期からその特異な才能と孤高の精神は際立っていた。戦時下で父親代わりとなる二人の日本人に次々と教育され、彼は日本人の武士の心を学び、タイトルである「シブミ」の境地を人生の目標として、数奇な運命を辿りながらもその時々で貫き通す生き方は、西欧のハードボイルドの境地を超えた、「義」と「智」に裏付けされたものである。

ストーリーとしても素晴らしいが、ここにもまた大変に魅力に満ちた脇役で固められている。特にバスクの闘志で彼のケイヴィング仲間でもあるル・カゴと、謎の情報ブローカーのド・ランデスの科白群の妙は、マニエリスム文学をも彷彿とさせる。愛すべき脇役に支えられ、この作品の主人公もまた限りなく優しく強い。既にファンの多い作家でなので今更ではあるが、結構エンターテインメントとしても夢中になれると思うお勧めの作品だ。

さて、アメ太に関してだが、とても有り難い事に2人の方が預かりを申し出て下さった。いずれも申し分の無い人達だ。私が「エイズだと解かったのだけれど、それでも良いですか?」とは訊けずにいたのだが(何故ならば、もしもそれでは難しい場合、断るというのはストレスだろうと思うから、させたくなかったのだ)、2人とも私の気持ちを察して下さり「それでも預かりますよ。」と言ってきて下さった。何と有り難い。

いずれの方も、エイズキャリアである事を承知の上で、喜んでケアをして下さる意識の高い、そして甲斐性のあるご夫婦の方々だ。正直言うと、どちらかを選ぶ事は出来ない。しかし一人は、他にも預かりをしてあげたい保護ボランティアさんの猫たちをサポートしている。アメ太が行く事で、そちらが不可能になるのは心苦しい。もう一人は、実は私の代理募集をした猫の里親さんでもある方だが、先ほどお電話差し上げて、お願いしたい旨をお伝えした。

アメ太は、本当は私が我が子にするのが一番私の美学には敵っている。自分が出来ない事を人に押し付けるのは嫌だ。自分が大変な事は、他人だって大変なのだ。いつもそう肝に銘じてきた。私が引き取る事が、誰にも頭を下げずに済む簡単な方法だとも思う。しかしアメ太の本当の安心や幸せを思うと、猫密度の低い、且つ一日家にお母さんがいてくれる家庭でケアして貰える事の方が良いに決まっている。そして、私との信頼関係がある方であるならば、これ程良い条件はない。猫が幸せになれるのであれば、頭くらい幾らでも下げる。

退院後は、そこでゆっくりと心のケアをして貰いつつ、そして素晴らしいご縁があるのを焦らずに待とうと思う。タライ回しはしたくない。預かって下さる方も期限を決めている訳ではないし、我が子同然に人間の子供と同じに大切にしてくれる方だ。アメ太を安心してお任せ出来る、心にゆとりのある方だと思うので、退院後にはそちらのお宅へ移動する事になるだろう。元親さんも、どうか心配しないで欲しい。善意でのみ結びついた関係というものが、確かにあるのだと信じて欲しい。

尚、元親さんは一切の費用の負担をしようとしている。償いの気持ちだけでなく、本当に我が子として愛していた事も事実なのだ。本家の嫁として自由にならない立場の中、自分の働いたお金で今後もずっとアメ太にかかる費用は送り続けようという覚悟と共に、アメ太には元の生活を早く忘れさせてあげたいが、一生アメ太の事は忘れないようにしたいとも言ってくれている。ショッキングな始まり方をした一件ではあったが、急速に成長した元親さんを、私はもうひとつも責める気持ちはないし、むしろこれもひとつの縁あっての出会いだったのだと思う。

掲示板で見守って下さっていた皆さんには、大変お騒がせをしましたが、少しずつ前に進んでいます。一生、アメ太を大切に我が子として手元に置いて下さる方がいたら、どうぞご連絡下さい。最悪の場合でも、私がおります。どう最悪かと言うと、既に11匹いて、私が外に働きに出ていて不在勝ちであるというだけで、別に環境も少しも劣悪ではないし(うちはフードも良いと思うし、エアコンも完備させてますし、猫中心に生活が成り立っていますから)、むしろうちでは猫たちはいいご身分だと思いますが、やはりメンタルケアをしっかりとするには、なるべく家にいてくださる方に育てて戴きたいと願うケースですので、どうぞご理解下さい。

さて、私は具合が宜しくないので、もう寝る。たんと届いている里親募集の掲載は、明日頑張ります。

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