ルス

何が見える?

Oct. 3,2003

昨夜は、結局ミュウはケージから出たがって、静脈確保した左手でケージをバンパン叩くので、可哀想になって出してやった。呼吸が荒い。心臓が大きくピストン運動をしているのが目で解る。

落ち着く場所を探していたようだが、結局は私の寝るベッドの脇の床で寝ていた。ベッドに上げてやろうとすると、しんどそうなのでそっとしておいた。両脇には、水を抜いた痕が、ベタベタした感じで毛が強張っていた。何だろう、黴菌が入らないよう、薬でも塗ったのかな?とても重たい子なので、抱き上げられるのもきっと身体に負担がかかるのではないかと思って、可哀想でならない。

アインの涙目も相当本格的になってきている。気がつくとコットンでそっと押さえて水分を取り、ついでに鼻梁を軽くマッサージする。しかし直ぐにまたビショビショになっている。抗生物質の入った目薬を点しても治らない。流涙症だろうから、マメに鼻梁マッサージをしてやっているのだが・・・。全員にプロポリスを飲ませ、免疫力が高まるようにと祈るような気持ちだ。

今朝は職場までこうちゃんに送って貰い、遅刻はせず、むしろかなり早い時間に到着するようにして、その後でミュウを病院に連れて行って貰う事にした。病院始まる時間が、私のいつものラボ到着時間の1時間後だもの、早起きすれば済む事だ。しかしこの二人の留守中が心配で仕方ない。幸いにも、朝の抜け道はタイミングの良い事ばかりが続いて、踏み切り2つは開いていたし、信号待ちも少なく、スイスイと短時間で行けた。混むと1時間半もかかる事すらあるのに、35分で行けた。運が味方してくれているようだ。

仕事は慌ただしい一日だった。月曜日に行われる全体会議(同じ文部科学省のプロジェクトに関わる、全ての研究機関が一同に集まる)の配布資料を、またもやこちらで準備するから電子ファイルで川口宛に送るようにと所長が申し送りしたのだ。こちらで準備するという事は、私が準備するという意味に等しい。あちこちの大学や民間のシンクタンクなど、全部で20チームもあるのに。しかも、当日のタイムキーパーもやれと言う。それは無理だ。何故ならば・・・

月曜日の午前中に発表するチームは今日の午後3時までが締め切り、午後に発表するチームは当日の朝9時までに、川口宛にファイルを送るようにと指示が出ていたのだが、結局昨日までに届いたのは、東●総研と清●建設だけだった。流石、民間企業はきちんとしているな。その2チームだけでも、カラーでプリントしてセットすれば半日はかかる。あとはどうした?!当日セットしたものを持参か?シンポジウムの時の苦労が甦った。当日届いたファイルをプリントしセットするのに、もちろんアライさんやタケウチ・コバヤシさんも手伝ってくれるけれど、全貌を見ながらプリントの設定まではやり、何をどうするかの指揮はとらなければいけないだろう。それとタイムキーパーと両方出来る訳がない。そもそもフロアが違う。

一応、専門の仕事を与えられていて、それが殆ど手に付かない位、こういった頻繁にあるイベント関連の庶務を全て私に振ってくる所長。全体会議が終わればラボで逆見本市、次はビッグサイトで新技術展だと、よくもまあイベントが続くものだ。私は一体何時まとまった仕事が出来るのだ?そうこうしているうちに、きっと来年の春の報告書の編集がやってくるのだろう。私の事は、何時まででもこき使って良いと思っているのか。余計に給料を貰っているから当然なのか。私は仕事は早いけど、今の態勢では幾らなんでも無理が多いよ。

そして午後は、ある業界新聞の取材あり。これが事前に細かく資料の提出依頼が出ていて、一度の訪問で全て終わらせたいと言う割には、あまりに細かくて難しい注文が出ている。幸いな事に、センター長と所長が揃っている日だったので、かなりの部分で対応して貰う。しかし、写真が揃わない。シミュレーション開発している様子など、写真に撮っても何をしているのか解からないだろう。PCに向かっているだけの写真だ。

おまけに三宅島が噴煙を上げている写真が欲しいなどという。火山活動を研究する研究機関ではないから、そんなものはないと言うしかない。しかしその返事をするまでには、一応あちこちにあたって、つまり時間がかかる。私は定時で帰りたかったのに、1時間45分もオーバーしてしまったじゃないか。病院にミュウを迎えに行かなくちゃいけないんだ。早く帰ってくれ、新聞記者。かなりの年齢なせいか、それにしても業界紙らしい、なかなか横柄な記者だった。

こうちゃんはとっくに迎えに来てくれていたのだが、車で随分と待たせてしまった。途中、アライさんが子供達と自転車でやって来て、エサやりしてくれたり、クワハラさんが子供の声を聞きつけて2階の研究室から下りて来て、ついでにこうちゃんとも話し相手をしてくれたり、なかなかアットホームな研究所ではあるな。

さて、やっとお迎えに行くと、ミュウはきょとんとした可愛い目をしていた。何を考えているのだろう。毎日、長時間病院に一人で預けられて、一体自分の身に何が起きているのか戸惑っているだろう。何故、ママはボクを置いて行ってしまうのだろうと不安と不信感はないだろうか。

今日のレントゲン写真を見せて貰った限りでは、胸水の量は昨日とあまり変わっていない。どれ位のスピードでそれが溜まっていくか、当分は毎日様子を見て、点滴と静脈注射による投薬を続ける事になる。薬が効いたのか、状態は安定していそうだ。肺の石灰化は治らないけれど、このまま炎症が起きずにいれば、まだ生きられますよね?!と訊いてしまう。先生はあまり楽観的なことは言わない人だが、「そうですね。」と少し微笑んだ。

昨日、処置している間にわざわざ診察室を出て来て「もう、かなり危ないので・・・」と言った時の先生の顔はこわばっていたし、他の患者さんに「午後にいらして下さい」と言っていた奥さん先生の声もただならぬ感じだったから、本当にこれでお終いなのか?!と、ただただ悲しかったけれど、奇跡はちゃんと起こるんだ。神様、有り難う。

家に連れ戻って、ご飯を食べさせ、あとは出来るだけ安静にさせておく。ケージはアインが気に入って、自発的に入っているので、ま、それはそれでいいか。

電話が鳴り、こうちゃんが出て「ええっ!?」と悲鳴に近いような驚きの声を上げている。一瞬、ミュウが家にいるのを忘れて、病院からミュウの急変の知らせが届いたのかと錯覚するような、それ位に悲痛な反応だった。直ぐに「誰が逝ってしまったのだろう?」と不安になる。闘病中の子はたくさんいる。実家の父かも知れない。心当たりがあり過ぎた。しかし、いずれも違っていた。思いがけない子の死だった。そして何度も会った事はないながら、とても愛している子だった。飼い主も、私のとても大切な人なのだ。

臆病な子で、飼い主以外の膝に乗ってくれたのは、後にも先にも私だけだったという。巨大結腸で、その子自身も飼い主も、とても大変な思いを続けていた。いつもの処置に連れて行った昨日、突然天に召されてしまった。何の前触れもなく、本当に突然に。何度も危篤に陥ったミュウが生きていて、元気だった子がいきなり亡くなってしまう。まるで身代わりになってくれたかのようなタイミングに申し訳なさも感じるが。それ以上にその子への私の思いも強かったので、飼い主と共に泣いた。

命が尽きてしまった事に対しては可哀想でならないが、しかし精一杯愛されて、手をかけて貰って、こんなに泣いて貰えて、幸せだったはずだ。今は言葉が見つからないが、ずっと忘れない。飼い主は、ミュウの事もずっと心配してくれていたのが解かる。私の気持ちを思い、言葉がかけられなかったと言う。

ファビにはもう会えない。優しかったファビ。そして優しい飼い主ミキコ。ファビを、『白黒つけよう!』に掲載したのは、まだほんの数日前の事だ。ハナクソもあり、見事な八割れでもあるが、敢えて「覆面」でエントリーしたのだ。

ミキコとファビの事を想い、今はただ悲しい。詳しいことは、いずれ落ち着いてからミキコが『日々の想い』で書くだろう。私達はこれから何回も、こういう思いをしても見送らなければならないのだ。辛い。でも、だからこそ毎日を大切に、精一杯愛したい。少しでも悔やむ事が少なくて済むように。それでも悲しみからは逃げられない。

あの日、膝に乗って眠ってしまったファビ・・・私はいつまでもあんたの重みと共に忘れないよ。有り難う、ファビ。

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