窓辺

Dec.24,2003
2003年12月24日
Merry Christmas!しつこいようだが私はカトリックの信者なので、今夜は特別な気持ちでお祝いする。神は罪深い私達を救う為に、ご自分を(我が子を・・・とも言えるのだが、それを言い出すとややこしいのでやめておく)人間としてこの世に送り込んだ、その直前の夜を祝うのがクリスマス・イヴだ。信仰を持っていようがいまいが、祝おうという人達の気持ちを損なう権利などない。

病気(持病とは別)になってみて改めて思った。自分の立っている足元なんて、ひどく脆いものだと。私でなければ出来ない事など何一つないし、自分を支えていたささやかな誇りなど、ほんの少しの風の前にはただの「ホコリ」のように吹き飛ぶのだ。

しかしそんな思いをするのは初めての事ではないし、ホシノくんの言う通り「人生なんてどう転んでもクソみたいなものなんだ」という事も実感するし、また頭を上げて儚い塵のようなモノをコツコツと積み上げて行くのが性に合っててるんだし、若い頃のように先の事を漠然と不安には思わなくなった。一寸先の闇は何度も経験しているけれど、人生ってそう捨てたものじゃないという事も知っている。死なない限りは、そして目が見えている限りは、そんなに絶望するような事はないだろう。

ミュウが患っていた肺炎に、どうやら私も進展したようだ。ミュウの味わったものを追体験しているような日々だ。今日は比較的静かに横になっていた。ふと思い立ち、昼間にカワムラさんの部屋のベッドで寝る事にしてみた。1階で昼間に寝るのは初めての事だ。窓からは柔らかい陽が差し、目の前の公園の冬枯れの木立にやって来る野鳥に、猫たちは出窓で夢中で魅入っている。別室のぶーちゃんも、多分窓際の箪笥の上で同じ事をしているだろう。

私がベッドに横になりかけると、早速にやって来るのがリマとカワムラさんだ。先ずはいずれも譲らず、私の上体にすっかり乗ってしまう。大きな猫が2匹、少しでも自分が顔の傍を独占しようと頑張る。しかしリマだろうが誰だろうが、所詮カワムラさんの敵ではないのだ。頭がおかしいのではないかと思う位の強引さで、結局はカワムラさんがリマを乗り越え、私の口元にスリスリして勝負はついてしまう。

私がすっかり横になる前に、膝の間にはテトが、腹の上にはリマが、そして胸の上にはカワムラが落ち着いた。ペリーはベッドの左脇の出窓でこちらに頭と手を伸ばし、イオはベッドの右脇のソファから身を乗り出してこちらを伺う。ルスだけが、まだ出窓のクッションの上で外の鳥を眺めている。

熱でぼーっとしているものの、薬が効いているのかあまり苦しさはない。それどころか、思いがけずこんな幸せな昼下がりを過ごせて、誰に感謝して良いか解からない。外の景色も沈んだ色に霞んで見えて、外の景色が見える窓辺のベッドというのは何て良いものだろうかと思った。

2階のベッドが窓際にあった事もあった。しかし2階の窓は小さい上、大屋根の上に引っ込んで位置しているので、寝たまま外の景色は殆ど見えない。1階の窓は庭に突き出している上に2間の幅があって、部屋の一番端から端まで続いている。庭の直ぐ下は公園だから、カーテンさえ開ければ外の景色がパノラマのように広がる。

ヘッドボードの向こうには、庭に出る掃き出し窓があったのだが、それを潰すようにして本棚を置いてしまった。本棚には重しとして明治の文学全集が入れてある。戸のついていない棚も幾つかあり、その棚に入れ替わり立ち代わり猫が入る。寝ているベッドの上にも猫が数匹、頭の直ぐ上の棚にも猫・・・子供の頃から憧れていた「隠れ家」のような寝床・・・素晴らしいシチュエーションだ。猫と本があればいい、もうずっとそこに居たい。

ここはかつて年寄りのリビングだったのだが、体裁にはこだわらず、今では猫たちのいる部屋の全てにベッドを置いた。そしてリビングにベッドを置くのは大正解だったようだ。夏には窓の外にブドウ棚の葉が青々と繁り、春には公園の桜が間近に見える。いずれ寝たきりになった時は、ずっとそこで寝ていたいと思った。

ルス・リマに可愛がられて育てられたテトは、どちらにも似て良い子に育った。ルスとリマが来てから、もうじき1年になる。こんなにいい子たちになるとは、全く予想していなかった。

去年の11月に家に入れたカワムラさんとも、夜は和室の布団の中で抱き合って濃密な月日を過ごした。それにしても、勢いとは言え「カワムラさん」なんて名前をつけてしまって可哀想な事をしたかも知れない。何たって小説の中の「元祖カワムラさん」は頭がイカレていて、コイズミさんちのゴマちゃんを探すのにも協力的だった気の善い猫だったのに、最後はジョニー・ウォーカーに生きたまま腹を割かれて死んでしまうのだから。

そんな事を思い出していたら、うちのカワムラさんがますます愛しく思えて、蓄膿の臭い息も気にならずに暫く舐められるままにしておいた。鼻先を舐められたら、後が臭くて閉口したが。

ぶーちゃん

ボクは一人部屋

Dec.24,2003

夕方、日吉の「成田花園」から大きな花束が届けられてびっくりした。これはたくさん届いたミュウへのお供えの花ではなくて、どうやら私へのお見舞いらしいからだ。ラボのシミュレーションとロボットの両方のチームの有志の人たちからだった。有り難う、早く全快して仕事します。

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