ルス

フェレット?

Sep. 10, 2004

2004年9月10日 金曜日

今日の午後、知らない老婦人から電話があった。知らないと言っても、実はミヨコからその人の名前は聞いていた。ミヨコに既に相談していた事も知っている。歳は80を過ぎているらしい。丁寧過ぎる位のゆっくりとした話し方で、用件をなかなか言わない。でも、私には解かっている。私に何をさせたいのか、本当は解かっていたのだ。でも、こちらからは何も言わないでいた。

婦人は私の動向を盛んに探りを入れてくる。家はどのあたりなのか?どこでエサやりをしているのか?何匹位いるのか?家の近くではエサやりをしていないのか?そういう事を、少しずつデータとして取り出し、ある目的の為に私の隙を窺っているようだった。

私は正直に答えるが、口調はあまり優しくなかったと思う。

老婦人は訊く。「じゃ、お宅はお宮の先ですか?」
私も訊き返す。「お宮ってどこのお宮の事ですか?」
「K林神社です」
「先かどうかと聞かれても、そちら様がどこにお住まいか存じませんので、先なのか手前なのか解かりません」

いつになったら用件を言い出すのだろう。早く済ませて欲しい。いっそこちらから切り出してみようか。その婦人は、ある場所で野良猫のエサやりをしていたのだが、足を骨折して動けなくなり、現在は人に頼んでいるらしいのだ。エサやりを引き継いでくれる人が欲しくて私に電話してきた事は解かっていたのだ。

「どこそこの財団は今どうなっているのでしょう?」
「さあ、知りません。そもそもそういう財団と私は何の関係もなければ、興味もありませんから」

「では、どこそこのナントカ獣医はご存知ですわね?」
「存じ上げません」
「あら、それはおかしいわね。テレビやラジオでもとても有名でいらっしゃるのに」
「テレビもラジオも殆ど見聞きしませんから」

「団体は作っていらっしゃらなくても、お仲間がいて何人かでご一緒にやっていらっしゃるの?」
「いいえ、猫仲間はいますが、いずれも自分のところで個人でコツコツやっている人たちばかりです。私は誰かとつるむのは嫌いなんです」

「私なんかもう、あと何年生きられるか解かりませんでしょ・・・」
「ああ、私もそうです。本格的に発症したら、5年もたないと言われています。ちなみに浜さん(ミヨコ)もそうです。同じような難病ですので」
「でも、まだお若いから・・・」
「私は**さん(その老婦人)の歳までは生きられないと思いますよ」
ついでに浜さんもそう長くは生きられないと言っておいた。

そんな風にして、私はとりつく島もないような受け答えをしていた。さあ、どうする?用件は言わないの?余分な話がとても多い上、テンポがとてもスローなので、ここまでで既に1時間は経過している。早く電話を切りたい。こうちゃんが険しい顔をして「用件は何だ?」と書いたメモを差し出す。解かってるよ。決して請け合いやしないけど、これ以上に冷たく事務的にはしたくない。相手はご老人なのだ。

「解かりました。では諦めます・・・」
「え?諦めるとはどういう事でしょう。そもそもご用向きはどういう事だったのでしょうか?」

ここで漸く、本題が持ち出された。しかし言い方はこうだった。
「『あそこの野良猫たち、今後どうしようかしら・・・』と相談したら、**さんが『川口さんという人に相談してみなさい』と言うものだから、お電話したんです」
なるほど。自分から「エサやりをお願い出来ないでしょうか?」という言い方はしないのだ。さんざん私を探ってみたものの、最後まで用件が切り出せなかったのだろう。

実はこの方は、ミヨコに電話で同じ事を言って、みんなそれぞれエサ場も持っていれば10数頭の多頭飼いと勤めもあって忙しいから無理だと断られていたのだ。その時にも「川口さんはどうですか?」と訊いたらしい。その時点でミヨコが、あの人もエサ場2箇所と18匹の多頭飼い、そしてホームページの運営も仕事もあって忙しくてとても無理だと言ってくれていたのも知っている。それでも電話してきたのは、それだけ困っているという事だろうとは思う。

今度は私から訊く番だ。
「ご家族にはお願い出来ないのですか?」
「娘は病気で無理なんです」
「私も浜さんも病気ですよ」
「医者から何もさせないようにと言われてしまって・・・」

「お嬢さん(幾つか知らないが、私よりは上だろう)は、どういうご病気なんですか?」「え〜っと・・・慢性の扁桃腺のようで、今年の1月から微熱が続いておりましてね」「私はこの12年間、ずっと微熱と高熱が交互に続いていんるですよ」

どうやら痛いところに触れてしまったようで、今度はあちらが電話を切りたがっているのが解かる。私も意地が悪いと思うが、更に追い討ちをかける。「みんな苦しい中で、やり続けているんです。お金も時間も体力もない中で」

本当はこう言いたかった。「身内に、しかも血を分けた娘に頼めない事を、どうして見ず知らずの赤の他人に頼めるのですか?」と。「お嬢さんを甘やかし過ぎていませんか?」と。それぞれに家庭の事情があるの事も、親子と言えど価値観が違う事も解かるから、それは言えずに胸に仕舞っておいた。でも私が娘だったら、同居している母親が心血注いでいた事を心残りにして死ぬ位だったら、引き継ぐよ。

保護が必要な野良猫がいて、ちゃんと家に置いて戴ければ、里親探しのご協力は致します、それは出来ます・・・とだけ言って、穏やかにやりとりを終えて電話を切ってから、次第に怒りが沸々と湧いてきた。

こういうのは不幸の電話だ。私に今以上の負担は出来っこないが、聞かされた方は後味が悪くなる事を解かっているのだろうか。どこの現場だって、後継者がいなくて苦しんでいるのだ。だからこそ私も、あのラボで私が面倒見ていた野良猫は殆ど運び出したのだ。トムが残っているけれど。

その後で、ミヨコにはメールで報告しておいた。折角ミヨコが予め守ってくれていたというのに、しかもミヨコは前向きで慈愛に満ちた提案もしたというのに、それを無視して楽な方法をとろうとしたのだ。その事もちょっと腹立たしい。しかし相手の歳を思うと、我々が健康で生き永らえたとしても、いずれ死ぬ時にはエサ場はどうなるのだろうという不安はある。

だからこそ一層避妊を進めなければいけないし、自分の足元を見て行動しはじめる人を増やしていかなければならないのだ。エサやりしていた人がいなくなれば、いっときはそこの餌場の野良猫は悲惨だろう。しかし、私達が誰に相談するでもなく自発的に始めたのと同様に、その悲惨さを見ていられずに自発的に始める人が出て来る可能性もある。それまでの間は、猫にとっては受難の時期が続くかも知れない。

しかし個人で出来る事には限界があるのだ。誰もが必ず安心して任せられる後任を育てられるとは限らない。いや、むしろそんなケースは希だろう。先行きを考えてその不安でどうする事も出来ないよりは、兎に角自分がやって見せて啓蒙出来る限りはして欲しい。私も努力する。みんなもして欲しい。

実際、毎日のように捕獲器の貸し出し依頼は続き、今まで自分には出来ないと思っていた人たちも行動を開始しつつある。みんな志は同じだ。もう見て見ぬふりをしているよりは、勇気をほんの少し持って実行した方がどれだけ楽になるかを解かった人が、今まさに続々とマラソンをスタートしようとしているのだ。力いっぱい応援しますよ、そういう人は。でも、具合の悪い時に電話してきて、私があまり喋れなくてもどうか気を悪くしないで欲しい。24時間365日元気モリモリという訳にはいかないのよ。

その後も次々とご相談が舞い込み、ずっと電話、ずっとメールの返信・・・気が付けばもう夜明けだ。毎日同じパターン。夕方、歯医者には行ったものの、その後予定していたある「集会」には出られず。集会ったって、暴走族じゃないよ、宗教でもないし。エサやりバツ1の会だけど、私はバツ2だから出られなかったのさ・・・嘘だけど。痛みと疲れで、もはや限界だったのだ。

どうしてもオレンジジュースが飲みたくなり、こうちゃんがセブンイレブンに買いに行ってくれた。そこで偶然イノウさんと出くわしたと言う。イノウさんは、ご近所の人ではない。伊能忠敬が日本全国を測量して歩いた事を思えば、まあ近所の部類かも知れないけれど、車ででも30分はかかるはず。イノウさんはどうしてこんなところに出没するか・・・それは秘密です。コンビニ強盗の下見に来ていた訳ではない事は言うまでもないだろうが。

マルコ

得意の情けない顔

Sep. 10, 2004

もう1頭も増やせない・・・そう決意しているのに、どうしても気になる子が出て来てしまう。今日の『今日のにゃんこ』のルンルンだ。私に引き取らせて下さい、私が幸せにします・・・と言いたい。18匹もいる家に来て、幸せにしますと言い切れるのか?なまじの家よりは猫の位が高いし、ケアは丁寧にしているし、兎に角大切に可愛がるので幸せだとは思うが、それでは保護主の平山さんのお宅と変わらない。

片目がなくても、そんな事は少しもハンディキャップでない事はもはや充分過ぎる位に解かっている。家猫として暮らすには、たとえ両目が見えずとも殆ど不自由はないのだ。ついでに言えば、片足がないのもハンディではないし、エイズキャリアや白血病キャリアもハンディなんかではない。私に言わせて貰えば、ハンディと言えるのは自力で食事が出来ず、自力排泄出来ない子あたりからではないだろうか。

このルンルンは見事に愛らしい。仔猫の頃からとびっきり可愛かったけれど、成長してもこれだけ可愛いのだ。今夜、こうちゃんに相談して真剣に考えた。引き取るのは構わないよ、でもハナちゃんをリリースし、トムを家に入れられないでいるのに、どうしてこんな可愛い子を貰えるんだ?と言われて、グウの音も出なかった。だけど感じるものがあるんだもの・・・こんなに引き取りたいと思ったのは、グレちゃん(現「颯太」)の時以来だ。

苦しい。

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