今日は、病院の保護猫「こうちゃん」のお嫁入りの日だ。鈴木さんが車を出してくれて、渋谷区の里親さん宅までお届けしてくれる事になっていた。鈴木さんには１０時半にうちまで来て貰い、１１時に日吉駅で里親さんをピックアップする。人間のこうちゃんは、アインの具合が良くないので付いていて貰う事にした。
先ずは病院に直行して、猫のこうちゃんと１週間ぶりの再会をする。相変わらずお喋りが凄い。力一杯何かを訴えている。丸い顔がとても可愛い。そしてとても軽い。まだ痩せているのだ。毛が柔らかくて抱き心地が良い。キジトラとサビ柄がせめぎ合っているような柄だ。賢くて性格が良いだろう事は、助手のクボさんも保証してくれている。
お昼を食べてから午前中の診療時間が終わる頃にまた戻る事にして、向かいの『清水港』にご飯を食べに行く事にした。しかし暖簾が出ていない。「準備中」の札は掛かっているものの、準備している気配もない。また空振りか・・・とがっかりして、別の店に行く事にした。近くには気の利いた店があまりないので、今日は『濱町』にしようかと思ったが、改修しているのか建物がスッポリとシートで覆われていた。ここが駄目だったら、もう仕方ない。いつものうなぎ屋しかないじゃないか。
私はやっぱりうな重で、お二人は海鮮丼を食べた。人間のこうちゃんにもうな重の折詰を作って貰い、テイクアウトする事にした。私だけが美味しいものを食べては、猫たちの世話を任せて留守番させている人間の（ああ、面倒臭い）こうちゃんに気の毒だものね。
病院に戻り、猫のこうちゃんにネックレスを着けて写真を撮る。いつもだと、病院で慌ただしく写真を撮る時には、カメラの仕組みがより理解出来ていて腕の良い人間のこうちゃんでないと上手く撮れないので、人間こうちゃんがカメラマンに徹してくれるのだが、今日は私が撮るしかない。人間のこうちゃんと私では、ほんのちょっと写真の雰囲気が違うと思うのだが、どうだろう？日々の写真でも、私と人間こうちゃんの作品が見分けられる人はいるだろうか？里子データの方にも
幾つか写真を載せておいたので、どうかご覧下さい。
猫のこうちゃんたら、初めて着けただろうネックレスは全然気にならないみたいで、それよりも甘えたくて仕方ない様子だった。交通事故に遭った記憶のせいなのか、車の往来が見える待合室では落ち着かず、診察台の上では鳴き止んで身体をグネグネさせ、しきりに甘えていた。
猫のこうちゃんの新しい名前は「ナナ」ちゃんと決めて戴いていた。ゾラの小説からとった名前だと聞いていた。あまりにもひょうきんなナナちゃんは、まだとても妖艶な「ナナ」とは言えないが、猫は環境次第でどんどん変わる。きっと直ぐに広尾や青山の雰囲気にピッタリのレディになるだろう。美しいサビ猫「ナナ」として、日本中にその名を馳せる日は近い・・・なんちって。
二人とナナちゃんを乗せた車を見送って、私は午後４時の来客に備える。既にこうちゃんが猫トイレの掃除をしてくれていた。こうちゃんは今朝、珍しく「調子悪い」と独り言を言っていた。医者に診て貰うよう勧めるが、言う事を聞かない。こうちゃんが先に死んだら承知しないぞ、私は。
仙台の美智子さんとご主人、美智子さんの都内のお友達、そして娘のケイちゃんの４人をお迎えし、ミルクティと豆腐のプリンでお茶にする。日帰りで仙台からの小旅行だったみたいだ。オフ会に来てくれたケイちゃんとは数年前に一度会っているけれど、美智子さんとは電話と手紙だけのお付き合いで数年が経過していた。品の良い美しい、どこに（例えば園遊会などに）出しても恥かしくないような奥様で、私とは大違いだ。私の母も、私にああいう風になって欲しかったのだろうなあ・・・しかしもう手遅れだ。母は美しいし、妹も美しいので、それだけで我慢して欲しい。私の余生は猫の為にだけあるのだから、もし葬式に行けなくても許してね。
アインの具合が良くないので２階の猫たちには会って貰えなかったけれど、カワムラ部屋の面々は代わる代わる愛想を振り撒いてくれていた。ビビリのぶーちゃん部屋の３匹、猫も人間も嫌いなみーちゃん、まだまだお客様が苦手なガラとも会って貰えないので、７匹しかお見せ出来ないのが残念だ。ストレスに弱い子たちは、無理にご接待させると後が厄介なので、つい過保護にしてしまう。
ケイちゃんはますます美しい大人の女性になっていた。別れ際に「やっと親を連れて来られました」と笑顔で言って、私の手を握った。私もケイちゃんの気持ちが嬉しかった。ケイちゃんのこの先の人生が豊かで幸せなものであって欲しいと、横浜の偽母は願わずにいられない。
