ジーコ

手を握る

Oct. 16, 2004

2004年10月16日 土曜日

明け方近く、ジーコは暖かい寝床から出て来て、私達のベッドで寝ているアインに寄り添った。

するとアインは息子を抱き抱えるようにして、顔を舐め、耳の中を舐め、両腕を舐めてやっていた。かなりしつこく長時間。私はカメラを構えてシャッターを押し続けた。いい写真が撮れた。しかしファイル転送しようとしたら、「予期せぬエラーが起きました」とメッセージが出て、全ての画像ファイルが壊れてしまった。



最近そういう現象が時々ある。しばらく立ち直れない。

カードリーダーに挿入し、いざ転送開始という時に起きる。もう諦めるしかないのだろうか?仕方なくフォーマットして、また頑張って撮るさ・・・と気を持ち直すのだが、今のうちにジーコもアインもたくさん撮っておきたい。今のデジカメにしてからのミュウの画像がろくになくて、どうしてもっと大量に撮らなかったのか悔やまれる。

私が勤めに行っている間に、こうちゃんがもっとたくさん撮っておいてくれれば良かったのだ・・・と八つ当たりしてみたりもする。




今日のジーコは、昨日の注射が効いたとしか思えない位、呼吸が落ち着いて楽になった感じがする。私が触ると、昨日までは辛そうにしてケージやキャリーに篭もってしまった。しかし今日は少しは撫でさせるし、ベッドの上に出て来た時にその手を握っても、写真を撮っても逃げなかった。目も開けている時間が増えた。

ステロイドが効いているのか、或いはインターキャットの効き目なのか、それともキドナに混ぜ始めたプロポリスのお陰か、兎に角苦しそうな様子が激減した。昨日の朝、実はインターフェロンの錠剤を飲ませてみた。これは私の独断だ。後で病院に連れて行った時、マツモト先生には告白しておいたのだが。

先生曰く、「大抵の動物用の薬は人間用の薬であるけれど、インターフェロンに関して言えば、それを産生した細胞と同一種の動物、ないしは培養細胞で効果的に作用を現すものであって、種が異なるものの間で使用し続けると、抗体が出来て効力が減退すると言われています。だから最初に使用した場合には劇的に効く事も在り得るでしょうが、前に一度使った事があったり、使い続けているとそれは効かないと思って良いと思います」との事だった。なるほど私も免疫系の病気だから、この説明を聞いてとても良く納得した。

しかしジーコにヒト・インターフェロンを使ったのは初めてだった。誤解を恐れず言うならば、副作用があっても仕方ないという覚悟で飲ませた。それ位、もうジーコには時間が残されていないと感じたから。ジーコが元気になってくれるのであれば、いや、百歩譲って少しでも苦しみを取り除いてやれるだけでも良いから、それが出来ると言われれば私は鰯の頭だろうが高い壺だろうが印鑑だろうが買ったかも知れない。

果たして効いたのはヒト・インターフェロンだたのかインターキャットだったのか、プロポリスなのかステロイドなのか解からないが(大方、ステロイドが劇的に効いたのではないかと予測するのだが、ステロイドに依存している病気の私としては・・・)兎に角、ジーコは今日、とても楽そうに過ごせた。神様に有り難うと心の中で叫んだ。そして毎日祈っていたミュウに対しても。

朝、N池さんが腎臓に良いというハーブをわざわざ届けて下さった。その時、N池さんのさくらちゃんの肝臓がもっと酷い状態でありながら、治療の結果回復して元気になっている事を聞いた。それはハーブよりも希望と勇気をもたらしてくれた。

苦しませる治療はしたくない、回復の見込みが無いのに通院や治療のストレスの方が大きいとしたら、それはやめようと思っていた私ではあったのだが、昨日の治療でジーコが少なくとも苦しんでいる時間がずっと少なくなった様子を見ていて、確実に気持ちが変わった。そしてマツモト先生に電話し、毎日注射に通った方がより効果的なのかどうかを訊いた。現金なものだ。

別に医者が嫌いという訳でもないし、対処療法しか出来ない慢性疾患を持つ自分と照らし合わせてみても、薬を使わなければならない局面やボーダーラインというものも心得ているつもりだった。でも、どこかに諦めがあるのかも知れない。抗っても無駄な場合もあるんだという。

ともあれ、注射は一日おきで良いと言われたので、今日は静かに過ごさせる事が出来た。2時間おきの強制給餌が、ここ暫くは苦痛でしかないように見えたジーコだったのに、それも比較的苦労せずに与えられた。やっぱり苦しかったのかと改めて思う。

ジーコはステロイドも初めての使用だった。これが続けていくうちには当然効かなくなり、今よりもっと苦しんで最期を迎えるのかも知れないという恐れも一方にはある。今やっている事は、私が「何でもない時」には一番嫌っていた「不自然な延命処置」なのか、それとも当然の治療の範囲なのかは私にも解からない。先生にも答えられないだろうと思う。どちらでもあり得るのかも知れない。

しかし、いざ自分の大切な身内を失うかも知れないという局面では、何と脆い事か。でもこれだけは言える。猫たちを残してさえいない状況ならば、自分自身には不自然な延命処置は望まないと。その時は、じたばたしないでミュウの元に行きたい。

今はただ、ジーコを楽にしてくれた薬に感謝する。飼い主としては弱過ぎるかも知れない。苦しむ様子を見ていられないという弱さ。向き合わなければならない老後や病気は、誰にも(どの生き物にも)必ずある。若くて健康な時は、猫との生活はとても楽しい。しかしながら、そこだけを享受する訳にはいかないのだ。

それが理屈で解かっていながら今の苦しさから逃げたら、可愛い仔犬のうちだけ気紛れに飼って、大きくなって手に負えなくなると保健所に連れ込む(殺処分へと追い込む)無責任馬鹿飼い主と大差ないのではないかとふと思う。だから正直に言えば何も考えずに眠ってしまいたい気持ちは強いけれど、私達が自分たちの飼い猫の運命を決め、責任をとって行くしかないのだ。ここで踏ん張らなくてどうする。

気分が良いせいか、引き篭もっている時間が少し減り、一日を通してまたアインと舐めあうシーンが何度か見られた。そして無事、写真にも残せた。残せた?写真なんか残してもどうするんだ?と思う気持ちも同時に起きる。でも、私がジーコを見つめる目がそこに表せる写真が撮れるかどうかという事は、実際喜びではあるのだ。言い訳する必要なんかないんだけどね。

ジーコ

母に甘える

Oct. 16, 2004

今日はもう一つ考え違いを正しておきたいと思う。

先日、別の映画に関連して『真実の行方』でのE・ノートンだけを褒めた。記憶だけで書いたのと、話の繋がり上、そういう事になってしまったのだ。

実際、巧い若手だと思う。

しかし今日、改めビデオで見直してみて気づいた。ノートンよりも、主人公の弁護士を演ずるリチャード・ギアが断然上手い。

ノートンは、あの役柄で得をしているのも事実だ。むしろ改めて観てみると、あどけない顔に似合わず腕なんか鍛えられていて筋肉質で、ちょっとマイナスだと感じた。



リチャード・ギアは、正直言うとこれまで全く好きではなかった。どこが魅力的なのかも良く解からなかった。タイトルは忘れたが、悪徳警官の役を演っていた作品を見た時には、ああ、落ちぶれたもんだ・・・とまで感じたし、それがまるで「地」のように思えて嫌な俳優だとすら思った。

しかし『真実の行方』では、冒頭の辺りで傲慢に(受け取られるのを恐れず)論じた「真実」論など見せかけで、実はかなり誠実で優しい奴なのではないかと直ぐに解かる。

この事に関して、殆どの映画評では全く反対の事を書いているのには驚いてしまう。みんなノートンばかりに気をとられて、主人公の弁護士マーティンがどういう人物像であるのかの読みが大変に浅いのだ。


見た目の役作りから言えば、細かい文字を見る時には律儀に老眼鏡をかけて年齢を匂わし、酔った時や困った時などに見せる素振りが、ところどころ一寸ずつジジむさい。甘い二枚目俳優から脱したのだぞ・・・と言わんばかりだ。

成る程、その演出は功を奏している。むしろ歳をとってからの方が渋くてずっと良くなったと感じさせる。何だ、こんなに正統派の素敵な役者だったんだ・・・と今更ながらに感じ、贔屓でなかった者が観ても、ちゃんとリチャード・ギアの魅力を観る事が出来る映画なのだから。

怒りや興奮を押し殺した時の、顎のエラのところが引き攣るように動くところとか、ヒステリックな反応を見せる昔の女に直対応はせず、善良そうで牧羊犬ような小さな目で諦めたように笑うところとか、大人の男の演技が光り、腹芸の上手いところを存分に見せていた。

そして何と言っても着ているものが素晴らしくいい。仕立てと生地が良いのが手に取るように解かる。取材の為に時々傍にいる記者の着ているスーツとは、明らかにモノが違う。

そういうスーツを着こなす体型がまた良い。若い頃の甘い二枚目ぶりより、哀愁漂う中年になってからの方が良くなった役者だ。そう、ゲーリー・クーパーのように。



そしてこの映画の中では、スーツという小道具がとても象徴的に使われる。

弁護士事務所の元警官の黒人助手に無茶な事をさせようとする時、「新しいスーツを買ってやるから」と言ってなだめる。

容疑者アーロンにも初対面でスーツのサイズを聞き、公判で陪審員に好印象を与えるべく柔らかい印象の茶のスーツを用意してやる。

アーロンから人格が入れ替わった(という事にしておこう)ロイが、いつも仕立ての良いスーツを着ているマーティンに向かって毒づく。「そんなスーツ着てカッコつけやがって」と。

つまり、スーツが男たちの品性やステイタスを表し、且つ戦いの際の鎧にもなっているのだ。



しかし日本人の男が同じアルマーニのスーツを着ても、同じようにサマになるとは思えない。

我が夫は頭が小さくて手足が長く、日本人にしてはとてもスタイルが良いのだが、それでも貧弱な上半身にスーツを着ても、ここまではサマにならない。彼にはスーツを着た時の品の良さはダントツにあるが、男の色気はないからな。





カメラワークも大変良かった。

シカゴの冬のピンと冷たい空気が、画面の色に出ている。屋外の空気、室内の空気が肌に感じるような画面だ。

撮影は『レイジング・ブル』や『タクシー・ドライバー』のマイケル・チャップマン。下手をすると失敗に終わりがちなのだが、カット割が非常に多く、その結果無駄がなくてスピーディな場面転換に仕上がっており(それは監督の編集の腕か)、ところどころで見せる俯瞰もダイナミックで必然性があり、そして屋外のシーンが何とも言えずシカゴ臭く(行った事はないが)且つ端正な美しさだ。



冒頭、テャリティ基金のパーティー会場となるホテルは柱が多くて、格式ある古い建物である事が解かる。その会場のシーンでは、後の法定で裁判官を務める女性判事がかなり酒好きである事も伏線として描かれている。行き届いているのだ、細部まで。





しかし一番良かったのは、挿入歌だろう。圧倒された。

(ホルトガルの)ファドの歌姫・ドゥルス・ポンテスの歌声が、ただのBGMとして流れるのではなく、その後繰り返される必然がちゃんとドラマの中に最初に仕込まれている。

そういう脚本の細部も見事だ。きちんと細かい要素が積み上げられて、非常にきっちりとした構図が広がる。

原作の良さは勿論あるだろうが、映画的手法がいちいち心憎いばかりに成功していると感じる。





結果としては、この映画はE・ノートンの怪演なしでも素晴らしく映画的に傑作だと思う。

1度目には、ストーリーに目くらましかけられてしまって細部のディーテイルには気づかなかった。2度、3度と細部を味わうに足りる映画だった。

ドゥルス・ポンテスの歌を聴くだけでも、或いはリチャード・ギアのスーツを見るだけでも、この映画を観る価値ありと言っておこう。





余談になるが、この作品を「目立ちたがりで自分勝手な弁護士で、そのため最後にしっぺ返しを受けるという因果応報の物語と見るべきだろう」と評しているサイトがあるのには驚いた。表面的なものしか見えない映画好きがいるものだ。

野心家で金と名声ばかりを求めているかの如く振る舞い、またそう評価されている辣腕弁護士が、実は全ての人間の中に「善」は在ると信じており、何よりも自分にそれを求めている事が酔った勢いでついポロリと打ち明けられる酒場のシーンをどう見るか・・・。

そこでの演技をどう捉えるのか。

彼は酔った勢いで記者に本音を打ち明けた。

「検事局にいた時、仕事で不正を行った。信念を裏切った自分を許せず、検事局を辞めて弁護士になった。世間はどうせ嘘つき扱い。だが自分には固く心に誓った。そして実行して来た。”仕事で良心を汚すまい”と」そして微笑んで目配せして言った。「記事にしたら訴えるぞ」と。

但し、この最後の台詞は吹き替え版と字幕スーパーとでは逆の意味になっており、原語でどう言っているのか何度も巻き直して聴き取ってみた。

" I will reserve my lies for the rest of my public life."と聞こえるのだが・・・それで正しいとしたら、吹き替え版に於いて「仕事でしか嘘をつかない事にした」と訳したのは間違いではないのか。



それにしても、ストーリーのうわべだけしか追わない・理解出来ない映画ファンもいるものだと呆れる。「悪徳弁護士」などという表現をしている素人映画批評家もいて、単純で語彙の少ない不適切な表現にはうんざりする。

悪徳なところは作品の中では一切無い。自分で自分を「敏腕弁護士」であると言った程度だ。

彼が本当に善意の弁護士だったからこそ、州検察長官に忌み嫌われているヒスパニック社会の顔役(別件での依頼人)が多分その長官に消された時も、その暗黒外の依頼人が実に弱者の味方であり善意の人間である事を知っている弁護士は友を失った悲しみに打ちのめされる。

そして法定で州検察長官に復讐する、その友情が解からないのだろうか。



だからこそ観終わった後、ノートン延ずるアーロン青年に善意の弁護士がまんまと騙された事が、何とも後味の悪さをもたらすのだ。彼は本当に善意の弁護士だったよ、終始。

それだけに、信じたものに裏切られた悲哀のうちに終わるエンディングにかぶさるドゥルス・ポンテスの歌、そしてエンドロールには「レクイエム」の「涙の日」が流れ・・・何と切ない事よ。

あの歌声は、いつまでも耳に残っている。>>ここで聴けます)

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