情婦-WITNESS FOR THE PROSECUTION-

大好きなビリイ・ワイルダー監督の作品から。それにしても「情婦」とはびとい邦題であり、トリックのひとつをバラしているようなものだ。ここは原題通り「検察側の証人」で良かったのではないかと思うが、如何なものだろう。

原作はアガサ・クリスティの短編。金持ちの老女殺しの容疑者にタイロン・パワー、その妻にマレーネ・ディートリッヒ、弁護士にチャールズ・ロートンを配し、それぞれの人物描写が素晴らしい。弁護士ウィルフレッド卿は持病の心臓病が悪化していて、刺激の強い殺人事件の弁護は医者に止められている。口うるさい看護婦が付き添っておりロートンの実際の夫人エルザ・ランチェスターが演じているが、この二人のやりとりが可笑しい。このあたりの設定は原作にはないもので、いかにもディーテイルに凝るビリイ・ワイルダー監督・脚本らしい映画になっている。短編を2時間近い作品に膨らませているのだから、その分シナリオの腕が冴える訳だ。

ディートリッヒは、戦時下のドイツからタイロン・パワーに助け出された過去を持つ年上の妻を演じ、回想シーンではその音に聞こえし脚線美も見せるし歌も聴かせる。しかしそれは単なる映画としてのサービスで終わらず、ちゃんと伏線となっているところが見事だ。つまり、妻は女優でもあった訳で、これ以上書くとネタをバラす事になるのでやめておくが、何故妻が夫を告発する側の「検察側の証人」として法廷に立ったのか・・・見ていない方は、お楽しみ下さい。タイロン・パワーのぬけぬけとした、少し下品な色男ぶりもぴったりだ。

原作の結末にもうひとつのドンデン返しを加えたところも見応え充分で、最後まで我々は楽しく騙される。サスペンスものでありながらユーモアを随所に見せる、ビリイ・ワイルダーならではの演出が見事です。そもそもこの監督は、エルンスト・ルヴィチ(名作「ニノチカ」の監督)の下で修行したシナリオライター上がりの監督である。台詞に凝り、小道具に凝り、シチュエーションに凝り、役者の起用にも絶妙な職人気質を見せる。そのエッセンスが凝縮された「情婦」は、必見の映画です。今後もこの監督作品には何度も触れずにはいられないだろうと思うが、先ず手始めにこれから行ったのは、昔少女時代に妹とTVで観て二人で感動した想い出があるからだ。今観ても充分に新しい、見応えのある映画です。

原作 アガサ・クリスティ
脚本 ビリイ・ワイルダー
    ハリー・カーニッツ
監督 ビリイ・ワイルダー
1957年
モノクロ作品
アメリカ映画


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