熱いトタン屋根の猫 -CAT ON A HOT TIN ROOF-

この作品を初めてTVで観たのは、小学生の時だったと思う。今では全然何とも思わないのだが、この作品でポール・ニューマンを初めて知って夢中になった。

1958年製作の映画という事で、当時さむぼり読んだ「スクリーン」などにも詳しい情報はなかった。当時映画雑誌を飾っていたのは、キャンディス・バーゲンとか(人気投票ではいつもNo.1だった)出始めのダスティン・ホフマンなどで、ポール・ニューマンが日本で再び脚光を浴びるようになったのはもっとずっと後の『明日に向かって撃て』『スティング』などが上映される頃の事だった。

それでも、いつもTV欄をくまなく探しては、ポール・ニューマン出演作品を観た。

大抵は昼間の放送枠でしかやらず、学校を早退して観た事もあった。ギリシャ彫刻のような横顔とニヒルな表情に、少女の私はすっかりいかれた。

大人になってみるとそういう世を拗ねたタイプは嫌いなのだから、人の好みは変わるものだ。



さて、物語はアメリカ南部の大農園を舞台に繰り広げられるほんの数日間の人間模様である(原作は、テネシー・ウィリアムスの戯曲)。

ブリック(ポール・ニューマン)と妻のマギー(エリザベス・テイラー)は、癌の宣告をうけて退院して来るブリックの父親(バール・アイヴス)の家に戻る。

ブリックの兄夫婦は、父親の莫大な財産を狙って大歓待をしている。父親は自分の病気の事は知らない。


マギーはこの舅のお気に入りなのだが、ブリックからは夫婦生活を拒絶されている。

ブリックは元フットボールの選手だったという設定で、この時は足を骨折している。

それもアルコール依存症が故の怪我である。


父親は、おべっかを使う長男夫婦とその煩い子供達よりも次男のブリックを可愛がっている。

しかしブリックは父親に対しても心を開かない。仕事も遺産も妻も興味ないのだ。妻のマギーですら、夫の愛情だけでなく財産は欲しいというのに。


そのマギーの科白で印象的なものを一つ・・・
"You can be young without money, but you can't be old without it."

物語が進行するにつれ、何が原因のアルコール中毒か、何故彼は妻を拒絶するのかが見えてくる。しかし原作ほどには、彼とその死んだ友人のホモ・セクシャルな関係は描かれていない。

むしろ妻のマギーが男同士の友情に嫉妬して夫の親友を誘惑し、大事な相棒と妻への信頼を失ったが為に酒に溺れているという具合に描かれている。

原作も中学生の時に読んだ。しかし、当時の私が本当に理解していたのだろうか?

ブリックの父親というのは、古きアメリカの父親像そのままの、強くて大きく、頑固で怒りっぽい人間だが、中年になってから観てみると、この巨漢の父親のほうがよほどポール・ニューマンより魅力的に見えた。

要は父親は大人で、息子はまだ青臭いのだ。

父親に怒鳴られ、松葉杖と酒のグラスを取り上げられ哀れに泣く息子に比べて、父親の方は身体は病魔に冒されていても、精神は健全である。

医者に与えられている痛み止めの注射も拒否し続ける。薬は精神も麻痺させる、痛みは生きている証しだ・・・と言う科白が印象的だ。



『熱いトタン屋根の猫』という題名は、ドラマの中でマギーが言う科白から来ている。

必死で求めても夫に相手にされずにいる自分が、熱いトタン屋根の上にいるメス猫のようだと言っているのだ。(記憶だけで書いているので、正確な部分は判らないが)




この作品のエリザベス・テイラーは、脂の乗り始めた凄まじい美貌を見せている。

この少し後年の作品『バターフィールド8』に繋がっていくような強い意志と女の業のようなものを、ちゃんと観る者に伝えている。

世界一の美女というお飾りだけではないのだ。



尤も美しさに関してだけ言えば、もっと以前の『陽のあたる場所』の頃が最高だとは思うが、如何せん意志的なものは感じられない。



この時代の映画を不作だと言う年寄りもいるようだが、私はそうは思えない。

ともあれ同じ原作者の作品『欲望という名の電車』よりは、個人的に好きな映画である事は確かだ。



監督:リチャード・ブルックス
原作:テネシー・ウィリアムス
脚本:リチャード・ブルックス
    ジェイムス・ポー
出演:エリザベス・テイラー
    ポール・ニューマン
    バール・アイヴス
1958年
アメリカ映画


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