羊たちの沈黙 -THE SILENCE OF THE LAMBS-

比較的最近の作品であり、あまりにも有名な映画なのでストーリーには触れないが、今日(2000年5月4日)原作の続編を読み終えて、感動新たなうちに書いてしまおうと思っている。

私にとってこの映画の魅力は、主演男優アンソニー・ホプキンスの魅力そのものである。類い希な殺人者・ハンニバル・レクターを演じさせて、これ以上の深い人間性を出せる俳優はいないのではないか。例えばクリストファー・ウォーケンだったらどうか?冷徹なイメージや不気味さ・怖さは出せても、人間性の幅や何者をも説得してしまうような大人の懐の深さ・老獪さのようなものは無理だろう。では「エイリアン」でビショップ役を演じたランス・ヘンリクセンはどうか?この人も良い役者だが、インパクトや不敵さに欠ける。私が即座に思いつくのは、この二人位だ。更に言えば、二人とも若干セックスアピールには欠けると思うのだが、それは個人的な趣味の問題かも知れない。

ジョディ・フォスターも2度目のオスカーを受賞しただけあって、清潔で勇敢な、且つ心にトラウマを持った役を熱演している。この作品ではヒロインのクラリス・スターリングが、まだFBIのアカデミーの生徒という設定であるから、ジョディ・フォスターで良かったのだと思っている。続編の映画化が決まり、彼女は辞退したそうだが、それは賢明であったと思う。あれから7年という歳月が経ち、クラリスは成熟した美しい大人の女性として描かれている。ジョディ・フォスターが美しくないとは言わないが、看護婦の舌を噛みきる瞬間ですら血圧も上がらないほどのレクター博士が、見惚れてしまうタイプの女優とは言えない。それは出産を経た今も、この女優につきまとうサイボーグ的な硬さが先に出てしまうせいだ。

ともあれ「羊たちの沈黙」でのクライマックスは、個人的にはこれ・・・即ち、移送される途中の四方から監視可能な檻に入れられたレクターに、クラリスが彼の描いた絵を届けに行った際、たった一度の接触として格子越しに彼女の指を自分の指ですうっと撫でるシーン。たったこれだけで何とセクシーな事か。しかも、それが劣情からなるものと感じさせないのは、そこに至るまでの殺人犯でありながら高潔とも言える人格を演じてみせた俳優の勝利だろう。

ハンニバル・レクターの魅力は、続編では更に増大している。「人喰いハンニバル」あるいは「怪物」と称される殺人犯ではあるのだが、その非現実的とも言える人物像の魅力は、例えばショーン・コネリー演ずるジェームズ・ボンドの如く、荒唐無稽でありながらも魅了されずにはいられないマジックがある。精神分析医でありながら有能な外科医以上の手際と冷静さを備え、多国語を流暢に使いこなし、古典音楽を愛し自ら奏で、その容姿・立ち居振る舞いは洗練と優雅を極め、心の底に温かく決定的な傷を持つ小柄で痩身の中年男性。映画化も既に決定しており、幸いな事に全作同様アンソニー・ホプキンスが演じるらしい。それは何よりだ。きっと、前作以上に見事なハンニバル・レクター博士像を見られる事と期待している。映画化権はあの大物プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスが取得したという。流石ですね。

監督:ジョナサン・デミ
原作:トマス・ハリス
脚本:テッド・タリー
撮影:タク・フジモト
音楽:ハワード・ショア
   
出演:ジョディ・フォスター
    アンソニー・ホプキンス
1991年
アメリカ映画


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