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《CAT'S EYES & CAT'S HANDS》猫の為の情報
麻痺があって自力排泄出来ない子のケーススタディ集
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case 1 るなすけさん宅の、下半身麻痺の「にゃーぶー」の場合(update Jul. 16, 2005)
サイト管理者川口より、先ずご説明させて戴きます。

この「にゃーぶー」ちゃんは、交通事故に遭って病院に保護された元ホームレス猫で、るなすけさんが引き取ってケアしていらっしゃる猫です。川口の飼育している猫ではありませんので、川口宛にご相談を戴いても、お役に立てる事が殆どありません。

排泄介助に関するご相談は、信頼出来る獣医さんになさるのが一番です。膀胱の位置が解らないとお悩みの飼い主さんが多いようですが、解るようになるまで病院に通いながら教わって下さい。遠隔地の私が教えて差し上げられるような事ではありません。

どうかご了承ください。このケーススタディは、これを見れば万事OKというような安直な「ガイド」ではありません。こういうケースもありますので、どうか皆さまもそれぞれに頑張って下さいというものです。

インターネットで得られる知識や情報には限りがあります。全てをうのみにしないで、現実の獣医師との信頼関係を大事になさりつつ、試行錯誤して身に付けて下さい。


<脊椎と脊髄>
にゃーぶーの麻痺は、医学用語では「L(腰椎)7とS(仙椎)1の脱臼」だそうです。

「脊椎」と「脊髄」の違いもこの時、改めて認識しました。

ごくごく大ざっぱな説明でいうなら「脊椎」はわたしたちがいう「背骨」にあたり、「脊髄」はその中を走る神経と考えてよさそうです。一度、傷ついてしまうと二度と再生しないのだそうです。

そして「脊椎の損傷程度」と「脊髄の損傷程度」は必ずしも一致するわけではないそうです。例えば、脊椎が脱臼して神経を圧迫してしまっている為に麻痺しているような場合は、神経が生きている内に整復してその圧迫を取り除いてやることができますが、逆に脊椎の損傷自体は軽度であっても、神経自身の損傷がひどいと回復の望みは少なく、その場所が上の位置であればあるほど、麻痺が広範囲になる、ということもあるわけですね。

「L7とS1の損傷」からくる麻痺は「膀胱、後ろ足、尻尾」でした。
にゃーぶー

事故直後・入院室にて
(保護された猫でした)


<日々のケアその1・圧迫排尿とは>
にゃーぶーは後ろ足やしっぽだけでなく膀胱まで麻痺があります。その為、1日に3度は膀胱を圧迫しておしっこを出させなくてはなりません。

コツをつかめば誰にでもできるのだと思います。普通に4本の足で立つことのできる子でしたら、その姿勢の方が(重力で降りてきた)膀胱の位置を探りやすいのですが、立てないにゃーぶーが横たわった状態で膀胱を探し出し、おしっこをしぼらなくてはなりませんでした。

しぼる人が右利きなら猫の身体は左下、左利きなら右下ですね。しぼる人の頭の向きと猫の頭の向きは一緒です。身体を左下にして横たわった猫の背中には左手を添えます。(圧迫時に身体が逃げないように)

そして下腹部を探り膀胱を確認します。膀胱を、親指と残る4本の指でやさしくもちます。猫の背中側からこちら(人間の側)にやや引き寄せるような形でしぼります。

うまくしぼりだせれば、意外なほどの勢いでおしっこが出てきます。背中を支えている左手を使って、四つ折くらいにしたハンドタオルをお尻に当てておくとおしっこの飛び散りが防げます。一度で全部しぼりきることはできません。

しぼっているうちに膀胱がしぼんでくるのがわかります。牛の乳搾りと同じように、少しずつリズムをつけてしぼるのがコツのようです。

【しぼっている最中は、嫌がるので写真がどうしても撮れませんでした】

日に3度、というのはあくまでもにゃーぶーにとっての目安です。膀胱の位置が確認できた後は、何度も触っている内に膀胱に溜まった尿量もだいたい推測できるようになりました。

にゃーぶーにとっての少なからず多からず、というタイミングが日に3度なのです。少なければしぼりにくいし、ぱんぱんに溜まった膀胱を圧迫するのはやはり怖いです。


<日々のケアその2・圧迫の時に気をつけなくてはいけないこと>
1.膀胱がパンパンな時
何度も圧迫したり、尿が溜まった状態で長くいたような膀胱は弾力が失われているそうです。膀胱がパンパンになるまで溜めないようにと言われました。

パンパンだけど圧迫しなくてはいけなくなった時にはおしっこがちゃんと出ているかを目で確認しながら、少しずつしぼります。

2.男の子に多いと思いますが、結晶、結石ができていた時
ありえることです。出口が詰まっているのに、圧迫すれば膀胱の破裂につながります。(これは定期的に尿検査をすることで早期発見できます)


<日々のケアその3・オーバーフローとは何か>
オーバーフローとは、膀胱がいっぱいになっているのに、おしっこは次々と作られ、入りきらなくなった分のおしっこがぽたぽたと漏れ出てくることです。

敷いてあったタオルがおしっこで濡れていて「自分でおしっこできるようになったのかしら?」と思う飼い主さんは多いそうです。定期的にしぼっていなくて、お尻の周りが濡れているなら、それはオーバーフローである可能性があります。

「ぽたぽたであっても少しずつ出るなら無理に圧迫して出さなくてもいいのでは?」と思われるかもしれませんが、オーバーフローは大変な危険をはらんでいます
1.いつも膀胱がおしっこでいっぱい
血液内の尿素窒素が上がっていってしまいます。気分が悪くなり、吐き気も出ます。尿毒症へまっしぐらです。
2.長い間にわたって膀胱がふくらんだままの状態だと、膀胱自体がたるんたるんになり、もろくなります。


<日々のケアその4・便出し>
うんちは自力で出せなくても、すぐ問題になるということはないそうです。食欲があって食べていればうんちは日々作られ、古い順に押し出されてくるはずだからです。

それでも問題点はあります。
1.うんちが腸の中に留まっている時間が長いために、水分が吸収されすぎてかちんかちんの硬いうんちとなり、便秘がちになってしまうこと。

2.押し出されるまで待つということは、常に腸がうんちでいっぱいということです。人間でも便秘の時には気分が重くなるもの。うんちがスムーズに出されていないと食欲も失われてしまいます。

一度にたくさん出すのは無理なので(にゃーぶーはおしっこの圧迫の時よりも嫌がります)、肛門付近で出せそうなものを1日1回、ころんころんといくつか押し出します。うんちは固いので位置を探りやすいです。


<日々のケアその5・床ずれ>
さいわい、にゃーぶーは自力で右下になったり左下になったり、前足を使って移動することができるので床ずれまでなったことはありません。しかし、後ろ足はとても細く、普通ならみられる筋肉や脂肪といったものがないので、たまに骨の尖った部分がすれて赤くなっていることがあります。
にゃーぶー

細くなってしまった肢

骨の出っ張っている部分は最も床ずれになりやすいので、常にやわらかいタオルを敷いています。それほど重くないといっても、体重でタオルの弾力がなくなるので、こまめにとりかえます。

あと獣医さんには今以上には太らせないように言われました。太っていると麻痺の部分にも負担がかかりますし、お腹に脂肪がつくと尿の圧迫がしにくくなるからだそうです。

あまりたくさんは動けなくてもある程度の広さは必要かなと思います。すっぽりとベッドに収まった状態は人からみれば安心かもしれませんが、使える筋肉まで衰えさせ、同じ姿勢で身体が固まってしまいます。にゃーぶーが動きたい範囲、動ける範囲はある程度広めにとっています。肢がひっかかると危ないのでサークルやケージは使いません。
にゃーぶー

自分で転がって移動

おもちゃで遊ぶこともあります。またたびボールをかじったり、平らなカーペットタイプの爪とぎで爪を研いだり。

ひもにじゃれるのも大好きです。わたしの本を見ながらの未熟なマッサージも、にゃーぶーにとっては遊びの一種のようです。
にゃーぶー

爪とぎ


<日々のケアその6・圧迫排尿や便出しをされることは猫にとって苦痛か?>
私も最初はそう思っていました。「かわいそうだ」と。というのも、今でこそおとなしくさせてくれますが当初はすごい勢いで抵抗したからです。しぼる時だけカラーをつけていた時期もありました。

しかし、今ではまったく抵抗しません。どうしてあれほど嫌がったのか、私なりに考えてみました。

1.(獣医さんから聞いたのですが)骨折などの大きな怪我をした子は、その後すっかり治っていても手術跡を触られることに強い抵抗を示すことがあるそうです。今は痛くなくとも、触られることでその時のひどい痛み、恐怖を思い出すからである、とのことです。

圧迫の時に背中を触る手が、嫌だったのかもと思います。

2.動物にとっての本能
お腹は一番やわらかく無防備。そこをぐりぐりと探られるのは馴れている猫でもやはり抵抗があるようです。(撫でられるのとは違いますものね)

3.何をされるのか?という恐怖
今でもいつもと同じ場所、同じ手順でないと少し抵抗する時があります。
横たわる
にゃーぶー

どれも時間が解決しました。今では背中を触られるのも嫌がらなくなりましたし、「だーいじょーぶー」などと声をかけたり、決まった場所で決まった手順を決めてしまえばクリアーできました。

医学的には否定されることなのかもしれませんが、わたしにはどうしてもおしっこをしぼっている時のにゃーぶーの表情が今では、「気持ちよさそう」に見えるのです。溜まっていたおしっこが出ていく、ぱんぱんだった膀胱がすっきりするのがわかっているのだと。にゃーぶーは確かに「それ」を感じ取っていると信じています。

ただ、便出しは全く!気持ちよくないようです。嫌がります。あまり嫌がる時は、次回に先送りします。うんちの大きさとか向きとか、腸壁への当たり具合が嫌な時があるんでしょう。(たぶん)


<圧迫排尿や便出しの利点>
「いいことなんかあるの?」と思われるかもしれませんが、あります、いいこと。

おしっこの検査をしたくても、普通だったら飼い主の見ていない間に猫トイレにしてしまってなかなかおしっこが取れませんよね。圧迫排尿なら楽に「採れたて」のおしっこを、自分の目で色や匂い、澱(おり)やにごりなどが毎日確実にチェックできるのです。

恐ろしい結晶はないか?もやもやしたものが混ざっていないか?変なにおいがしないか?同じタイミングでしぼっているのに、多すぎないか?少なすぎないか?病院ですぐに尿検査してもらうこともできます。プラトレーに受ければいいのですもの。

細菌はいないか?pHはだいじょうぶか?などなど。

便出しもそうです。毛がたくさん混ざっていたらブラッシングを増やすとか、いつもより量が少ないなと思ったら食欲をもう一度チェックするとか。毎日が健康診断みたいです。


<飼い主としての気持ち>
これを読んでおられる方はどの方も、自分の愛する猫のために何でもしてあげたい、できることをすべてしてあげたい、という人だと思います。その子のためなら何でもしたい飼い主さんと、それほどに愛されている猫。。。どちらもやはり幸せなのだと思います。

にゃーぶーもわたしも「大変でしょう」「かわいそうに」と言われることもありますが、わたしは幸せだし、にゃーぶーはかわいそうではないです。今も生きているんですもの。

歩けるようになっても、ならなくてもいいです。そのどちらであっても、愛する猫と二人三脚する幸せの毎日に変わりありません。

願わくはこのスタディが、少しでもみなさんとみなさんの愛する猫との幸せな二人三脚の一助となりますように。
にゃーぶー

遊び疲れて眠る

case 2 募集中
麻痺がある子のケアをなさっている飼い主さん、是非経験談をお寄せ下さい。
メールはこちらまで・・・catseyes@catmew.net 川口宛

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