《CAT'S EYES & CAT'S HANDS》 猫の為の情報

猫の心筋症

case 1 川口アインのケース



以下は、当HPオーナー川口の飼い猫アインの場合について、その経緯を簡単にまとめたものです。猫の心筋症に関してはあまり経験のある獣医さんがいないようですし、対処療法しかない事からあまり予後は良くないそうです。

アインの病気を知った時、少しでも症例を知りたいと切に願ったものですから、我が家の場合を参考までに書き記しておく事に致しました。






心筋症とは・・・(心筋症インデックスでの説明と一部重複します)心筋症とは、「原因または関連の不明な心筋の疾患」と定義されています。そして「肥大型」「拡張型」「拘束型」の3つに大別されています。

拡張型では心臓が大きくなって内腔が広くなった結果、収縮機能が正常に働かなくなってしまうもので、肥大型では心臓の内腔に向って心筋が厚くなり左心室が狭くなるもの・・・いずれも全身への血液の流出障害を起こす症状です。

心臓というのは、全身に血液を送り出す左心系(左心房と左心室)と、全身から二酸化炭素や老廃物を受け取って戻ってきた血液を再び肺に送り出す右心系から成り、肺で新鮮な酸素を経て動脈血となった後、再び心臓に戻ってから大動脈を通って全身に供給される・・・という繰り返しを行なっている重要な臓器です。規則正しく収縮と弛緩を繰り返し、血液を絞り出しているのが「心筋」という筋肉である訳です。

この心筋に障害が発生した場合、血行不良や呼吸困難が起こり、結果としてチアノーゼや血栓の形成、後ろ足の麻痺などが起りますが、血管の細い猫に動脈血栓などが発生した場合、死亡率は極めて高いようです。治療法はなく、強心利尿処置による血管拡張などの対処療法しかないのが実情だそうです。





アインの発症

我が家のアインにこの発作が初めて起きたのは、11歳の誕生日を数ヶ月過ぎた、2001年6月半ばの事でした。

最初の発作は、良く観察しないと傍目には判らないものでした。寝ていたところから移動して、うつむいて固まったようにじっとして、よくよく観察していると呼吸が速く浅い感じがしました。

もがいたりはしませんが、たいそう呼吸が苦しそうに見えました。

安静時に夜中に起きた発作でした。

この時は1時間ほどで治まり、やがて身体を伸ばしてリラックスしてから、いつものようにゴロゴロと言いながら私の手をしつこく舐めていました。

治まった時は安心しましたが、発作の最中はこのまま死んでしまうのではないかと心配で堪りませんでした。



2度目の発作は、私が勤めに行っている間の昼間に起きました。

夫が家に居たので会社に電話をくれて、すぐに早退して帰りました。連絡を貰って30分で家に辿り着いたのは、かなりのスピードで車を飛ばしていたと言う事でしょう。あまり記憶にありませんが。(この時には違反で捕まりませんでした。)

この日は流石にかかりつけの獣医さんに連絡をとり、症状を訴えました。

その段階で、心臓が弱っているようだとは言われましたが、そっとしておいてあげる方が良いかも知れないとも言われました。その理由は、また後で述べます。

病院に直ぐ連れて行かないのは、このアインは大変に車での移動によるストレスに弱く、健康な時ですら、ささほど長い時間ではないにも拘わらず何度も下痢を起こし、却って体調が悪くなる事を繰り返していたからでした。

仕方なく、ワクチン接種などは往診に来て頂いていました。



そして病気は治療よりも予防だと考えて日々のフードに注意し、免疫力を高めると言われるサプリメントを与え続けていました。

ストレスが身体に与える影響は、本当に大きいものです。ストレスが免疫力を低下させる事も確認されています。

こういう子の場合、自然治癒出来る可能性の高い症状の場合まで、心配の余り病院に駆け込むのは逆に良くない結果をもたらす事もあります。何でもかんでも病院に連れて行きさえすれば安心だ・・・という思いを払拭するようにしていました。

もちろん、外科的な施術が必要な場合や、重篤な状態を招きかねない病気の場合はその限りではないでしょうが、本人(猫)を苦しませるようなたくさんの検査や長期の入院には、私自身は反対でした。

しかし適切な治療のお陰で一命を取りとめた保護猫もいましたし、一概には言えない事も身を以て知っているつもりです。

この時には、結局往診して頂き、心電図と聴診したものの、この時の心電図からは正確な診断は得られませんでした。心拍数が平常時でも多い事だけは判っていました。

幸い、その後3ヶ月ほどは何事もなく過ぎました。夏の間は、むしろ元気な様子で過ごしていました。

しかし5月に活発な仔猫のジャムを貰って入れた事によるストレスも原因のひとつと考えた為、その後に予定していたもう1匹の里子を受け入れるのは断念しました。

少しずつそのストレスもなくなったかのように見え、発作の事も忘れかけていたのです。



大きな発作と「心筋症」の診断

2001年9月21日の夜、3度目の発作が起きました。

この時も、安静にしていた時に突然起きた発作で、寝ていたベッドを降りた途端、後ろ足が萎えたようにヨタヨタと数歩進んで、そのまま床にへたりこんでしまいました。

胸と腹の2箇所で、ピストンが上下しているような激しい動きがハッキリと見られます。その上下動の大きさは尋常ではありません。3センチくらいは盛り上がり、またへこみます。

時々ひきつったように、不整な動きもしていました。心臓が爆発するのではないかと不安になる程の大きなピストン運動でした。



その時は後ろ足をだらりと伸ばしてそのまま動かず、力みもせずに脱糞してしまったのを見た時にはもうこれで駄目かと覚悟を決めかけましたが、しばらくすると自力で立ち上がり、楽な姿勢と場所を探して部屋の隅で前脚を開き気味に踏ん張って固まりました。

夜中近かったのですが、獣医さんの自宅に電話して相談し、急いで往診して貰いました。

チアノーゼを起こしていて、口の中を覗くと舌が白っぽい紫色になっていました。足の肉球も非常に冷たく、鼻梁に皺を寄せて荒い息をし続けていました。



獣医さんが来てくれたのは、発作が始まってから1時間近く経過した頃でした。途中病院に寄って、心電図を撮る機械やら薬などを持って来てくれていました。

心電図はなかなかじっと測らせないので苦労しましたが、今回は一応の結果が出せました。

そこで診断されたのが、この「心筋症」という訳です。心房と心室の動きのバランスが非常に悪く、心拍数は異常に多くなっていました。



あまりに大きな発作だったせいか、翌日は死んだようにぐったりと眠り続け、食事も摂らず毛繕いも全くしませんでした。

時々息をしているか確認しながら、急に冷え込んだ日でもあったので部屋を暖かくし、傍で手を当ててやって過ごしました。

夜半に4度目の軽い(昨日と比べて・・・ですが)発作を起こし、この時は発作の最中に自分でトイレに入り、オシッコとウンコをしました。

その後40分ほど苦しそうな早い呼吸を続け、じっと固まって耐えていましたが、やがて治まると私の膝の間に入って眠りました。

そして数時間後、自発的にご飯を食べました。

悪いのは心臓ですからご飯を食べたから安心という事ではありませんが、苦しければ食べないだろうから少なくとも今は楽になったのだろうと、それだけを喜びました。





対策

大きな発作の場合、呼吸困難だけでも死に至る事もあると言うし、血栓が出来て破裂した場合にはそれだけで一発で逝ってしまう事も多いと言われました。

また、発作を繰り返すたびに確実に衰弱するだろうし、その発作を未然に防ぐ為に血管を拡張させる弱い利尿剤を使い続けていく方法と、発作の起きた時に強心剤としてニトロを使うか強い利尿剤を注射するかの対処療法が考えられるものの、利尿させる事で確実に電解質のバランスが崩れるから、その弊害も否めないと説明されました。



同時に、利尿剤を使用する事で血圧が下がり、不整脈が起き易くなって血栓が出来易くなるという事もあると説明されました。

ひとつの対処をする事で、また別の対処(点滴で電解質を入れてやる等の処置)を必要としていく繰り返しとなるのです。それは、日々の通院や入院を求められる状態でもあるでしょう。



アインが通院が困難な子である事は、先生も理解してくださっているものですから、発作時の利尿剤の注射だけは預けてくれましたが、兎に角もう少し方策を考えさせてくださいと言って、この夜はお帰りになりました。

説明を何度も聞いていく中で、例え大学病院で検査を受け、更には心筋症の型を特定したところで、アインを根本的に救う事は出来ないと覚悟しました。





ここからは、人それぞれで対処の方針が異なると思います。

医学を信じて、兎に角納得出来るまで検査や対処療法を様々試すケースもあると思います。でも私達はアインの生命力を信じて、出来るだけストレスの少ない方法をとりたいと考えています。

多少のストレスを与えても確実に延命出来るのであれば、どんな方法も多大な治療費厭わない気持ちも確かにありますが、現実問題としてストレスがますます衰弱させる傾向にある以上、本人(猫)が安心できる状態での最大限かつ最良の対処をしていきたいと考えています。

そうは言っても、いざ発作が起きた時には神に祈り、獣医さんに泣きつき、自分が代ってやりたいと願いながら涙と鼻水を垂れ流してオロオロする情けない飼い主でもあります。



爆弾を抱えた状態でも日々何とか過ごして、1日でも長く生きてくれる事を祈る気持ちですが、また症状が出た時にはここで追加報告していきたいと思っています。

これを書いたのは、もし同じ症状に悩む飼い主さんがいらした場合の、何かの参考か反面教師にでもなれば良いと考えたからです。追記する事なく、このまま終わる事を願っておりますが・・・。(2001年10月記)





アインとの別れ
2005年3月16日、アインは逝ってしまいました。3年以上も心筋症の発作が起きず、末期症状の腎不全のケアをしつつ頑張って元気に生きてくれたアインでしたが、最期はやはり心筋症が原因の発作で亡くなりました。

息子のジーコの死までは発作が起きず、ジーコを私達と共に看取った直後に、久し振りの大きな発作が起きました。そして最も恐れていた「血栓症」となり、後足の麻痺が起きたのです。



そこから死に至るまでの詳細を報告するには、もう少しだけ時間を下さい。今はまだ、冷静に思い返す事が難しいのです。

但し、日記(「猫雑記」)には日々のケアやそこまでの経緯が書かれております。膨大な量ですが、ご参照戴ければ幸いです。(2005年5月記)

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