ミュウ

監視大王

Apr.28,2002

エサやりに行く道中に、JR所有の広大な空き地がある。貨物の操車場跡地らしいのだが、それはそれは広い空き地で、たまに柵を越えて犬の散歩や凧揚げなどをする光景が見られる。今夜エサやりの帰りにその辺りを通ったら、やけに人が多く、ピカピカの電飾をつけた大型ダンプがいっぱいすれ違う。何だろう?と思っていたら、大駐車場であるかの如くにトラックやダンプ、乗用車などがその空き地に停められており、ジャージ姿のアンチャン達が道端に溢れている。赤いライトの棒で交通整理をしているので、てっきり警官かと思いきやスキンヘッドのニイチャンだった。何があったのだろう?まだ続々と集まってきていたぞ。

エサやりは、昨日・一昨日と誰にも会えなかったのだが、今日はチャッキーとティムが連れ立って来ていた。チャッキーがやけにシャーシャー言っているので、どうしたのかと思って懐中電灯で照らして見たら、塀の上にハナクソがいた。ハナクソは、いつものように足を香箱に畳んで、じっとしている。警戒もしていなければ、身じろぎもしない。強気のチャッキーが、どうしてハナクソのような小さな身体のメス猫にあんなに怯えるのだろう?

ふと、ハナクソはもう既に死んでいて、私に会いに出て来てくれているのではないだろうか?と思ってしまった。だからいつも食べに降りて来ないし、瞬きも身じろぎもしないのではないか?あんな波板途端の塀の上で、一体どうやって香箱を作るのだ?あれはきっとハナクソの亡霊だったのでは・・・と思ってみた。

しかし一服してからまたエサのトレイを見に行ったら、ハナクソが食べていた。嬉しかった。ハナクソは生きていた。亡霊は、ご飯を食べないだうからな。

チャッキーの耳ピアスも、ティムのピアスも今のところ無事である。しかも綺麗な顔をしていた。どこかで上手に雨露しのいでいるのだろう。いきがかり上捕獲して避妊した猫とは言え、あそこで世話をしている以上は私の猫だ。みんな無事にささやかでもいいから幸せを感じて生きていて欲しい。

たまたまあそこで生きていく運命の下に生まれてしまったけれど、ちょっと巡り合わせが違いさえすれば、家猫としてふくふくと呑気に暮らせたのだ。外で自由に生きている方が幸せだなんて、私には思えない。ご飯すら人間が与えなければたちまち飢餓に陥る程だし、常に何かに警戒していてリラックスも出来ない。少しお腹が満たされている野良猫は、食べる物よりも甘えたいのだし、「自由」と呼べる程の自由などないのではないか。避妊していなければ、交尾の自由位はあるだろうが・・・。

秋田の中学生の募集の兄妹仔猫は、離乳してから名古屋に里子に行く事が本決まりとなった。里親さんは、ご自身でも迷い猫を保護して生涯面倒を見たり、常に保護猫を置いてくれていたような方だ。あの兄妹が生まれた4月10日に、先住猫が天国に旅立ったという不思議な巡り合わせでもあった。秋田からは、名古屋へ直行便が1便だけあったのが幸いして、空輸という手段がとれる。良かった。親の分まで自分が責任を持って母猫の避妊はするし、仔猫たちのトイレのしつけもきちんとすると言ってくれている。

この子が大人になった時、今のままの動物に優しい人でいて欲しい。途中、現実に押し潰される事もあるかも知れないが、どんな状況下にあっても、弱いものの為に少しだけ自分を犠牲に出来るような心の余裕を持った人になって欲しい。頭の固い大人を説得するよりも、子供達や若い世代に希望を繋いで、育てる手助けをする方が世の中は良くなりそうな気がする。大人達が、そして年長者たちが、他人の子供に無責任・無関心過ぎた結果が、今の殺伐とした世の中ではないか?もっと助け合おうよ。

しかし「助ける」と言うと、全てを最後まで「おんぶに抱っこ」しても良いという勘違いをする人間もいるのが困りものだ。ここまで来たら後は自分で出来るだろうと手を放すと、途端に「裏切られた」等と被害妄想に近い感情を抱く人もいる。負い目を持つ必要もなければ、人を恨むのも間違っている。もっと自分で出来る限りの事を淡々としてみて欲しい。

その点秋田の中学生は、子供ながらに「責任」というものを言葉だけでなく知っているような気がする。大人に、そして他人に依存していない。何度も避妊の費用は支援しましょうと申し出たのだが、自分のお小遣いを貯めてあるので大丈夫ですと固辞して来た。そして極めつけは、大人になったら川口さんのように、いっばい猫を飼うのが夢です・・・等と言う。可愛い。後は無事に離乳してトイレの躾も出来て、名古屋の里親さんの手元に行ける日が来るのを指折り数えて待つだけだ。

アインが、昨夜から具合があまり良くない。持病の心臓ではない。激しい嘔吐が日に何度も続く。安静時に突然起き上がって、激しく水分を吐く。そしてまた水を飲み、ご飯も食べる。あとはぐったり寝ている。腎不全が進んだのではないかととても気掛かりなのだが、生憎日曜日だし、もし病院が開いているとしても、連れて行く事は大変に難しい。車で移動させるだけで、ストレスで下痢をして脱水が起る程にヨダレと嘔吐・・・。前の時も、とても正常な状態での検査は出来なかったのだ。

とりあえず食欲はあるので、今度オシッコを採って検査して貰おうかと思う。血液検査も、往診して採血して頂きたい。贅沢な事を言うようだが、嫌がる事はしたくない。もう13歳・・・どこが悪くても不思議はないだろうが、人(猫)一倍ストレスを与えて免疫力が落ちる子なので、家から出したくはない。もちろん入院など、私が一緒に入院出来るのでもない限りはさせたくない。親バカ極まれり。

アインが小さく啼いたので、添い寝してやろうと横になったら、つい小一時間眠ってしまった。そして夢を見た。

私は猫3匹を乗せて車を運転している。後ろに去年まで勤めていた会社のパートの小田島さんが、同じく運転してついて来る。私は鶴見市場の裏通りを飛ばしている。路上駐車が多いので、対向車に注意しつつ車の加速力を計算しながらスピードを緩めない。後ろの小田島さんは付いて来られるだろうか?と気遣いながらも、スピードを緩められない。アクセルを踏み込む感触がある。

車を運転していたつもりなのだが、いつの間にか自転車を漕いでいる。ある曲がり角を曲がった途端、そこは舗装していない砂利道だった。しまった・・・ここは道路を造り直している最中だったのだ!と気付いて、自転車を停める。頭の上には高速道路があり、脇には川が流れている。川は途中から地下に潜るらしく、突然消えている。

川辺には大勢の人がいて、川を眺めている。汚い水の川である。そこに、車から脱走したらしいミュウがいた。直ぐに捕まえないと・・・!とドキドキしながらも、努めて普通の声で「ミュウちゃん!」と呼ぶ。何とか抱き上げられた。重たい。見るとジーコもいる。小田島さんに「ジーコを抱いてくれる?」と言ってみるが、猫の扱いに慣れていない人に、抱っこが嫌いで恐がりのジーコはとても無理だと思い、2匹ともに自分で抱える。

重い猫を抱いたまま車を探していると、とある路地裏のところで女の子が手招きした。行ってみると「はいこれ!」と言って、味の干物や丸々と太ったボラなどを並べたビニール袋を指された。そこは私のインプレッサの荷台部分であり、車が停められていたのは小さな魚屋の前であった。魚を受け取ると、直ぐに「はい、850円ね!」と言われ、私は財布から千円札を出し、150円のおつりを貰った。

その瞬間、全ての謎が解けた。私のインプレッサは猫と共に盗まれてここにあり、盗んだ人間は今、この魚屋のトイレを借りているのだ。魚屋は普通の小さな2階建ての民家の玄関部分を売り場として使用している。小さな家と板塀の間は、小さな庭があり、雑然と植木がある。そこに、勝手口からトイレを使用した男が出て来た。

若いバタ臭い顔の男だ。私は男に歩み寄り、極めて優しい口調で話しかける。猫は好き?ねえ、良かったら猫を貰っては頂けません?男は神経質で訳アリのムードのある長髪の痩せた男だ。猫は好きだと言う。だったらね・・・私のところには、凄く可愛い仔猫や大人猫がたくさん家を探しているの、ホームページを運営しているんだけどね・・・と、相手のした事を許そうと必死で優しい口調だ。

相手はどうやら私が車と猫の持ち主だと判ったらしく、照れ臭そうに言い訳を始めた。私はそれを制止して、いいのよ、そうしなくてはならなかった事情は判っているから。でも、あの子たちは絶対に駄目。大事な家族なんだから。別の子を貰ってやって、と説得する。

車に戻ると、こうちゃんがスーツ姿で車の傍に立っていて、再びワゴンの荷台のドアが開いたままになっている。またもやミュウが脱走を計ろうとしている。「駄目じゃない!どうしてドアを開けとくの?!」と、来たばかりの事情も判らないこうちゃんに怒りをぶつける。しかし私の保護者たるこうちゃんが、この一連のトラブルを私一人に対処させて、今頃現れたという事にも腹が立っていた。

これを話したら、またこうちゃんは「夢で怒らないでよ・・・」と言うだろうなあ。全てのエピソードが、今心に引っ掛かっている事項を非常に象徴しているようでもあり、何という事のないたわけた夢であるとも言える。兎に角、うたた寝などするとロクな事がないのは確かだ。ああ、夢の中でいっぱい活躍して疲れたぞ。

さて、ようやくこの連休中には新しいPCが出来そうだ。まだスケジュールは具体的にたたないけれど、西村博士の仕事の都合がつき次第・・・という事になった。電話で打ち合わせしていたら、椋ちゃんが可愛い声で啼いてみせた。いまだ赤ちゃんのようだ。しかし猫缶を日に3缶食べ、その他にもドライを食べていると言う。大分太りましたよ・・・と西村。新居に移ったばかりで、まだ匂い付けをしている最中らしいが、食欲が落ちる程のストレスがないようで良かった。

うたた寝した分、更新も晩ご飯も遅れた。今夜は生姜焼きと春キャベツのサラダ、じゃが芋とワカメの味噌汁の予定。お腹が空いた。食べたら、里親募集の更新と、新たなサビ猫の写真が届いているので楽しく作業しよう。ミュウはずっと、私の仕事を監視してくれている。ママのする事には、全て関心があるようだ。そして先を読んだかの動きをしてみせる。凄いね、ミュウ大王は。でも、お外には出ないよ。ずっとここで仕事するんだからね。
アインの独り言

ママがとても心配しているのは判るけれど、あたしはしんどい時には、放って置いて欲しいの。車になんか、絶対に乗らないわよ。ちゃんとご飯も食べられるし、あとは静かに寝ていたらそれでいいの。

ただ、ママにはもうPCを消して、あたしの傍にいて欲しい。それから、変な子守歌は絶対に歌わないでね。

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