最愛のミュウ
Oct.10,2003
2003年10月10日(1)
午前4時10分、ミュウは永眠した。長く苦しい夜があと少しで明けるところだったのに、ミュウの心臓はもはや保たなかった。13歳と7ヶ月の一生だった。

ずっと酸欠状態が続き、口を開けて舌をちょっとだけ覗かせて、苦しそうに息をしていた。一度も瞬きをしないまま、12時間は目を閉じずにいた。深い色の大きな瞳は、ミュウ特有のものだ。ミュウは私の声が聞こえていたのか、呼びかけると何度か体勢を変えながら、少しでも楽に呼吸出来る努力をしていたようだ。

苦しい時間が長く続いた。「もうじき夜が明けるよ。」「今苦しいのは、良くなる為だからね。」「大好きだよ。」「頑張れるね、ミュウちゃん。」そう言い続けていたけれど、次第に口の開け方が激しくなり、もはやじっとしていられない位に苦しそうになった。いつまでも私のエゴで苦しめるより、早く楽にさせてあげた方が良いのかも知れない。こうちゃんにそう言うと、そうだな・・・と声を震わせた。

「ミュウちゃん、もう頑張らなくていいよ。楽になりなさい。」二人で何度かそう言った後、ミュウがそれまでは目の焦点が定まらない感じがしていたのに、こちらにきちんと向き直って居住まいを正し、何か言いたげに口を開いて声を出さずに鳴いた。声を出さずに鳴くのは、ミュウの得意技だ。何かを切実に要求する時に、いつもそういう鳴き方をした。

私は、抱いて欲しいのだと解釈した。ベッドから引きずり出すようにして膝に乗せ、「ミュウちゃん、色々と有り難う。」「愛してるよ。」と言い続けた。ミュウは数十秒おきに、ピクリと痙攣した。そんな痙攣が2分ほど続いたかと思ったら、ミュウのお尻が乗った私の右の太腿が暖かくなった。オシッコをたくさん漏らしていた。ジーンズがその全てを吸い込んでいた。

その直後に、ミュウは手足を前に「う〜〜ん」という感じで突っ張った。そしてその次の瞬間、脱力して今まで大きく膨らんでいた胸とお腹が動かなくなった。死んでしまった・・・と思ったが、その直後にも大きな大きな痙攣が3度あった。

苦しかったろうね。窒息して死ぬようなものだったんだろうね。腕の中で見送れて、私は本当に幸せ者だ。最後まで、ミュウは本当に私への思いやりを見せてくれたのだろう。いつだってそうだった。

私が一人で泣いていれば、心配そうな顔をしてやって来て、涙を舐めてくれた。仔猫の頃の事だ。新しい猫を入れれば、先ず拒絶反応を示すアインから注意を逸らすかのように、ミュウは率先して新しい子の遊び相手を務めてくれた。アインが出産した時は、仔猫の羊膜を舐めとる手伝いもしたし、血の付いたアインの局部を舐めてやっていた。箱の中の仔猫たちを、その箱の縁に手をかけて覗くものの、決して中に入ったり、手を出そうとしたりはしなかった。

そして仔猫の遊び相手は、全てミュウが務めた。ジーコはミュウが大好きなはずだ。あれだけ育てて貰ったのだものね。

アインはミュウが鬱陶しいのかと思っていたが、いよいよミュウが最後に近づいた時、それまで眠っていたアインが叫ぶような声を上げて目覚め、寝そべっているミュウの尻尾を抱きこむようにして自分も横たわった。

ミュウが固くなってしまう前に、しっかりと目を閉じさせ、楽な格好をさせて工藤さんのプレゼントしてくれたベッドに横たえてやった。微笑んでいるような、穏やかな顔だ。死に顔など撮りたくもなかったのだが、あまりにも綺麗な優しい顔をしていたので、こうちゃんに撮って貰った。笑っているよ、ミュウちゃん。非情な飼い主?断じて違う。ミュウの全てが愛しいのだ。こうちゃんと変わりばんこで、ミュウのまだほのかに温かい顔にキスをした。何度もした。

ミュウは永久に私の傍にいてくれるだろう。私はミュウを求め続ける。姿かたちはなくなったとしても、ミュウは永久に私の一番大切な猫だ。そして私の命だ。これほど可愛い、完璧なまでに美しい、猫ではないようなや利口な、思いやりと忍耐力と優しさを持つ猫には、もう決して出会えないだろう。ミュウの特別さは、その立場と環境と私の愛が作り出した幻のようなものだ。だから、もう2度とはこういう猫には会えない。

ミュウは死なないと思っていたから、いつも仕事や更新や相談事の後回しになっていたミュウ。黙って耐えさせてしまった私は、酷い母親だ。でもミュウがいてくれたから、私は生きている。これからいっぱい恩返ししたかった。普通の人から見たら異常な位、いっぱい犠牲も払った上で一緒にいられる時間を可能な限り捻出して来たけれど、それでも後悔ばかりだ。ミュウを失う日が本当に来るなんて、本当は信じていなかった。

有り難う、ミュウ。ミュウちゃんと巡り会えて、ママは幸せだよ。ミュウちゃんも、ママが一番好きだよね。これからも、ずっと一緒に居ようね。愛してるよ、ミュウ。大好きだよ。ミュウは世界一素晴らしい猫だよ。朝が来たよ。

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