2019年3月13日 水曜日 |
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注:
例によって、映画の話題なので、ブログと同時にこちらにも載せておく事にします。
天国と地獄・・・以前にも書いた通り映画のタイトルです。BSでまた放送していたので、つい観てしまった。
つい先日観たばかりだと思ったけど、昨年の事なのか一昨年の事なのか思い出せない。
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在りし日のジニー 「忘れんぼねえ」 |
そうなの、でも昔の事は良く覚えているのよ。
父に連れられて妹と3人、桐生の能楽館でこの映画を観たのはもう半世紀も前の事だけど、昨日の事のように覚えている。
【椿三十郎】との2本立てだったから、リバイバル上映だったのだと思う。この事も以前書いたよなあ、確か。
小学生ながら親の影響で映画を観慣れていたので退屈する事もなく、実際どちらも面白かったのだけど。
今回は犯人役の山崎努と、一応主役なのかな、権藤役の三船敏郎の上手さに感心した。とりわけ若き日の山崎努の、削ぎ落とされ陰影の強い顔や全身から発する怒りのオーラに、不気味さを通り越して恐ろしさを感じた。
それと比べると、戸倉警部の仲代達也は、誠実な感じは良く出しているものの、どうもセリフ棒読み。あれ?【椿三十郎】や【用心棒】の敵役の時は、山崎努を凌ぐ程にギラギラと恐ろしく、冴えていたのになあ・・・善良な役は下手なのかな?
今回も大勢の刑事たちの懐かしい顔ぶれと、その滑稽なまでの一生懸命さが楽しかった。黒沢映画の常連さんたち、ああ、この人もいる、この人も・・・と、みんな今ではもう死んでしまった俳優たちだけど、懐かしく楽しんだ。
犯人の目星がついて、刑事たち総出で犯人の動きを追っている時、みんなそれぞれ工夫した扮装をしている。横浜らしく、港湾労働者のようだったり船乗り風だったり、アロハシャツ姿だったり、またある時は横浜「黄金町」の「青線地帯」のシャブ中の浮浪者のフリをして張り込んだり・・・
犯人が花屋に入ったと警部に連絡をすると、誰か花を買いに入れと命じられる。しかし「誰一人、花を買うような格好の者はおりませんっ!」と答える。ここで毎回大笑いさせてくれる。
犯人は、麻薬の売人と会う為の目印に、赤いカーネーションを買って、シャツの胸ボケットに挿すのだった。
一番怖いシーンは、やっぱり売春婦や麻薬中毒がいっぱいの「青線地帯の場面だ。
犯人が手に入れたヘロインを実験する為に、麻薬の禁断症状で苦しんでいた売春婦を「ちょんの間」に連れ込み、ヘロインを与えて殺害してしまう。
あの場面はロケではなく、作られたセットで撮られたそうだし、実際の黄金町がどんなであったのかは解らない。
しかしバラックが建ち並ぶ「青線地帯」の街に、ヘロインやヒロポン中毒の売春婦やホームレスたちが溢れかえっていたというのは事実だったのだ。日本3大「ちょんの間街」のひとつが、この舞台として設定された「黄金町」だったのだそうだ。
これでは確かに「地獄」だ・・・と観る者に感じさせるような場所として描かれている。
売春婦たちの中には、まだ若い菅井きんもいた。真ん中の黒いスリップ姿の女性がそう。
路地裏で犯人の山崎努が禁断症状で苦しむ売春婦を拾うシーンでは、白黒フィルムの表現力が遺憾なく発揮されている。
こってりと執拗に描かれる地獄絵だ。黒澤明って、女が嫌いなのかと思ってしまう位、リアルを通り越して汚く醜く描かれている売春婦たち。哀れ。
黒沢映画は「黒」の色が深くて濃いと言われるが、まさにこの作品でも夜の闇が鮮やか過ぎる程に黒く、なまめかしく黒々と凄味を見せつけている。なるほど、黒澤明とはアーティストなんだなあ・・・と感じるのはこういうところかも。
ところで、ずんぐりむっくりでいかつい、頭ツルっ禿げの刑事部長は、皆から「ボースン」と呼ばれている。舞台が横浜である事から港に縁が深く、実働部隊の長であるという意味で、船の「甲板長(boatswain)」になぞらえているのだというような説明がされる。
しかしこの時代では、まだ「甲板長」とは言わず、「水夫長」と言っていたようだ。「水夫」では侮蔑的だという事なのか、いつの間にか使われなくなっているようだ。
そう言えば、今は昔のように「道路工夫」だとか「炭鉱夫」、「人夫」などとも言わないそうな。差別用語という事らしい。
では「水夫」は何と言うのだろう?「乗員」か?「甲板部員」か?商船と艦船とでも違うのかな。
だけど「水夫」とか「水兵」と言った方が感じが出ると思うのは、私が古い時代の人間の証拠か。
「日雇い人夫」では悪いのだろうか?【巨人の星】の星飛雄馬の父ちゃんは、日本一の日雇い人夫だというセリフがあったよ、確か。
「道路工夫」、これでいいじゃん。立派な仕事で、侮蔑的な意味なんか込めていないのにな・・・。
しかし「いじめ」や「セクハラ」の定義と同様、言われたりされたりした側がそうだと感じればそうなのだとされる時代。「水夫」が差別的だと甲板部員が感じたら、私たちはもう「水夫」と言ってはいけないのだろう。
言葉に不自由な時代の私達。言葉に於いてのみ差別を禁じても、親や学校での心ある道徳教育がもっと徹底されない限り、今の一見豊かで実は荒みきった社会は良く変わらないよ。
日本は本当に、戦後の地獄から抜け出せたんだろうか?
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