レベッカ -REBECCA-

「レベッカ」はヒチコックの作品でも極めて雰囲気が陰鬱で暗いのだが、そのムードを盛り上げているのが、ローレンス・オリヴィエ扮するマクシム・ド・ウィンターの邸マンダレーだ。モノクロの画面が、一層効果的である。黒沢明のモノクロ作品のような、深い色彩を感じるモノクロと言って良いかも知れない。

レベッカというのは、マクシムの亡くなった先妻の名であり、劇中には一度も登場しない。しかし、ある金持ちの老婦人の秘書として保養地に滞在中、彼に見そめられ後妻としてマンダレーに住むことになったジョーン・フォンテーン(役名は忘れた)には、常にレベッカの存在が亡霊のようにつきまとう。あたかもレベッカは生きているかのように。邸にも道具にも召使いにも、レベッカの記憶が深く染みついていて、若き後妻を苛む。そして、レベッカの死の真相をローレンス・オリヴィエが語る場面では、レベッカの動きに合わせてカメラが動き、レベッカがいると錯覚させるような撮り方をしているのが当時斬新な手法として話題になったという。私が生まれる前どころか、戦前の映画(1940年制作)である。

見ていない方の為には、ストーリーをバラさない方が良いだろう。私がいつ見ても感じるのは、ジョーン・フォンテーンの無垢で清楚で痛々しいまでに無防備で未成熟な美貌(註参照)が、この役にはまっていて哀れですらあるという点だ。尤もこの物語のド・ウィンターには、何よりそこが最大の魅力だった訳だが。それにしても、召使いの女の怖い事。

この作品がヒチコックのアメリカでの第1作となった。イギリスから彼を呼び寄せたのは、この前年に「風と共に去りぬ」を制作したデヴィッド・O・セルズニック。プロデューサーというのは、映画製作に実は大きな貢献をしているという事が判る気がする。

余談だが、些細なディーテイルを記憶してしまって、忘れられない事がしばしばある。この「レベッカ」に於ける”ド・ウィンター”とか”マンダレー”、同じヒチコックの「鳥」に於ける”ボデガ・ベイ小学校”、これまたヒチコックだが「サイコ」に於ける”ベイツ・モーテル”等という名称が、不思議と一度で頭に入る。これは自慢じゃありません。肝心な事は忘れていたりするのですから。多分私の場合、音(オン)に敏感なのでしょう。何かに生かせないのか、この才能!!


    註:さもありなん。この時J・フォンテーンは20歳であった。

何度目かの
上映時の
ポスター
   これはポートレート、
   美しいですね。

原作 ダフネ・デュ・モーリア
脚本 ロバート・E・シャーウッド
    ジョン・ハリスン
    フィリップ・マクドナルド
    マイケル・ホーガン
監督 アルフレッド・ヒチコック
制作 デヴィッド・O・セルズニック
1940年
アメリカ映画


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