ドライビング Missデイジー -DRIVING MISS DAISY-

ジェシカ・タンディのような地味な女優が、歳をとってからこういう主演作品に恵まれアカデミー賞まで受賞するのだから、やっぱりアメリカの方が日本より観客の成熟度が高いのかな・・・と感じている。ジェシカ・タンディ・・・彼女はもっと若い頃、ヒチコックの「鳥」でちょっと厳しい母親を演じていた女優です。お判りになったでしょうか。彼女はアカデミー賞の受賞はこの作品で初めて、しかも80歳という最高齢での受賞であった。

この映画をより楽しむには、アメリカに於けるユダヤ人社会がどのようなものであるのかを、少し理解しておく必要がある。単に頑迷な金持ちの未亡人の老女・・・というだけでは、このミス・デイジーの性質は捉えられないのだ。この映画の中でも、ミス・デイジーは金持ちとは言え贅沢や派手に目立つことを嫌い、多くのユダヤ人の母親がそうであるようにマザー・コンプレックス気味の息子の母親であり(ジューイッシュ・マザーという言い方がある位だ)、規律を重んじ、ユダヤ教の敬虔な信者である。

年老いた母親が車の運転を続ける事に心配をして、ダン・エイクロイド演ずる息子が送り込んだのが、黒人運転手のホーク(モーガン・フリーマン)である。私はこの映画で初めて、モーガン・フリーマンを知った。その後、意外と若い事を知り(この映画では老け作りしていたのだ。そう言えばアカデミーメイクアップ賞も獲っているのだった。)、出演作品も目白押しだが、この映画では本当の老人かと思った。そしてこの黒人運転手が、いかにもジェシカ・タンディらしいかたくなな老女の心をほぐして行き、やがて二人の深い友情が育っていく25年間を淡々と描いている作品だ。こういう映画がアカデミー賞を獲るというのは嬉しい。

まだ公民権運動が始まったばかりのアメリカ南部が舞台で、この歳の黒人は教育も満足に受けていない事が、読み書きが出来ないという告白で判る。彼は2代目社長である息子に雇われたのだが、その会社は南部らしく綿花工場である。差別意識の根強い南部での、黒人とジューイッシュとは言え白人女性との友情・・・これは、当時の当地では生まれにくいものだと推察する。ミス・デイジーも当初は黒人という事に嫌悪感を抱いていたようでもあったが、やがてはキング牧師の講演会に出席するような、リベラルな考え方の女性でもある。遠出した別の州で、ホークが警官に差別的な扱いをされた事にも、心底怒りを覚えるのだ。

息子の世代にはユダヤ人らしさは大部薄れているが、シニカルで辛辣な性質は、単にミス・デイジーだけのものではないと心得ておいた方が良いかも知れない。参考になるかどうか判らないが「迷子の大人たち」という映画もユダヤ人家庭を描いており、その一員が事もあろうに恋にマメなイタリア男と恋愛におちるという設定の映画ではあるが、ユダヤ人の家族がどんな風か垣間見られる。

ミス・デイジーの車も、少しずつ新型に変わっていく。その事で25年という月日の推移を描いているのも洒落ていると思った。今は亡きジェシカ・タンディの、尤も彼女らしい一作です。

脚本 アルフレッド・ウーリー
監督 ブルース・ベレスフォード
製作 リチャード・D・ザナック
リリフィニ・ザナック
1989年
アメリカ映画


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