脱出 -TO HAVE AND HAVE NOT-

『リオ・ブラボー』でのコンビである脚本化のジュールス・ファースマンと監督のハワード・ホークスで繋ぐ。もっとも、こちらの作品の方がずっと古い。

「用があったら口笛を吹いて」(脚注参照)とは、映画のセリフではかなり有名なものだろう。『カサブランカ』での「君の瞳に(乾杯)」や「昨夜はどこにいたの?」「そんな昔の事は覚えていない」「今夜会ってくれる?」「そんな先の事は判らない」に匹敵する位に。どちらもハンフリー・ボガード主演である。映画でのセリフが有名になるのはボガードの映画が何度も上映されたせいでもあるし、脚本が気が利いているという証拠でもあるはずだ。

シナリオが練れた映画は無駄がなく、登場人物を生き生きさせる。もっともこの「脱出」はヘミングウェイの原作でもあるのだが、ホークスとヘミングウェイは実際に友人であったらしい。そして「君の一番出来の悪い小説だって映画化出来る」と言い、「それは何だ」と尋かれて 答えたのがこの《TO HAVE AND HAVE NOT》であったという逸話がある。

舞台となるのは『カサブランカ』同様、第2次世界大戦初期、ドイツがフランスを後略していた頃のフランス植民地であり、主人公の男はアメリカ人で行きがかり上レジスタンスの闘士を脱出させる手助けをするというのも『カサブランカ』と似ている。いかし『脱出』ではその後ボガードの妻となるローレン・バコール(これがバコールの映画デビュー)と初共演していて彼女が文句なくカッコいいのだ。

ローレン・バコールはとても20歳の女の子とは思えないほどのコワモテ、しかも美しい。ハードボイルドなのはボガードだけではない。奥さんの方が、よほどハードボイルドな気もする。日本人の男がこういうタイプを好むかどうかは難しいが、大人の女・・・しかも男の添え物でない自立した意識を持った女に見えるのがトクな雰囲気である。『カサブランカ』のイングリッド・バーグマンは、時代と運命に翻弄され、自分の意志では行動出来ない弱い女を演じていた。私にはそれが物足りない。時代の差もあるのでしょうが、今の若い男の子が昔の日本男児に比べて、そんなに意識が変わったとも思えないのですが如何でしょう。

この作品にもウォルター・ブレナンが酒飲みの船乗り役で出ている。ボガードの相棒役である。ハワード・ホークス作品には欠かせない脇役という感がある。脚本家は彼にもいつも作品中で口癖のようなセリフを言わせては、登場人物に独特の曲(クセ)を持たせている。そういう厚みというか遊びがないと、映画はつまらないものになる。毎度言う事だが、脚本が良い映画は面白い。それは確かだ。ジュルス・ファースマンも巧いのだろうが、フォークナーが脚本に加わっているというところも注目。

ただ、こういう古い映画を観る事の出来る機会が、あまりにも無い。ビデオ化されているかどうかも怪しい。『カサブランカ』ならばあるだろうが。私はTV放映でのビデオを持っていますので、ご希望があればお貸ししましょうか。(調べたら、ワーナーホームビデオから発売はしていました。)

これがローレン・バコール。
但し、この写真は『脱出』とは関係ありません。
いわゆるブロマイドです。

   註:
    「用があったら口笛を吹いて」というのは、実際に映画の中では
    You Know you don't have to act with me, Steve. Not a thing.
    Oh maybe, just whistle.
    というものである。しかし公開当時の宣伝文句として
    If You Want anything, all you hane to do is whistle.
    というものが使われ、どちらかというと後者がイメージとして定着して
    いるようだ。

原作 アーネスト・ヘミングウェイ
脚本 ジュールス・ファースマン
    ウィリアム・フォークナー
監督 ハワード・ホークス
製作 ハワード・ホークス
1945年
アメリカ映画


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