昼下がりの情事 -LOVE IN THE AFTERNOON-

アメリカ人富豪(ゲイリー・クーパー)の情事の相手の夫から依頼を受けたパリの老探偵(モーリス・シェバリエ)の一人娘(オードリィ・ヘプバーン)が、くだんのアメリカ人富豪と恋に落ちるラブ・コメディである。

富豪とあって、パリのリッツホテルのスイートに滞在し、専属の楽団を雇ってBGMを弾かせたりしている。楽団は4人だが、彼が行く先々について行き、たとえサウナのスチームの中ですら演奏し続ける。ヴァイオリンの胴の中に溜まった水分を、ジャーッとこぼしては弾き続ける。汗にまみれた衣裳は塩が吹いている。こういうディーテイルが、ビリィ・ワイルダーのタッチだろう。そう、この作品もビリィ・ワイルダー監督であった。コメデイタッチの軽妙なラブ・ストーリーを作ったら、天下一品である。

「アパートの鍵貸します」でのテニスのラケットやシャンパン、そしてキイ同様、他にも重要な小道具が色々出て来る。そのひとつ、ヘプバーン演ずる小娘が名うての中年プレイボーイに対抗して背伸びをして付けたアンクレットは、男を知っている女が付けるものだという伏線がある。その実まったくの”おぼこ”であったヒロインは、数々の嘘で自分も大勢の男を振り回している風を装う。その嘘は、父親の探偵がこれまでに扱った事件のレポートを盗み見した通りの内容であり、最初は嘘を信じて小娘にすっかり参ってしまったアメリカ人色事師が、正体の判らない小娘の調査を依頼したのが偶然にもこの父親だったものだから、父親はその相手が自分の娘であると気付いてしまう。

この父親の偉いところは娘を叱るのではなくて、大人である相手の男に愛情ではなくて興味でしかないなら立ち去って下さい・・・というような事を頼むところだ。むやみに娘に反対したら、火に油を注ぐようなものである。そういう恋愛の機微を知り尽くした感のある父親の態度は、とても立派で奥行きを感じる。そしてこの父親の愛と娘のいじらしさに胸を打たれ、プレイボーイはパリを経とうとする。まあハッピー・エンドなのだけど、それは観てのお楽しみ。あっと言う間に終わってしまうような気がするのは、それだけ無駄のない展開と洒落た科白、そして「面白い」という事だろう。

しかし気になる部分がない訳でもない。ゲイリー・クーパーが老け過ぎているのだ。ヘプバーンの可憐で初々しいのはその役にぴったりなのだが、ゲイリー・クーパーが、どうも問題を起こすようなアメリカ人プレイボーイには見えないのだ。理性や忍耐を感じてしまうのは、他の出演作のイメージが重なるせいだろうか。確かに「モロッコ」ではディートリッヒに追いかけさせる色男だったが、その当時は彼自身若くて甘い容姿だった。「誰が為に鐘は鳴る」でもウブな小娘バーグマンと恋に落ちるが、大人の自己犠牲的な愛でストイックに小娘を行かせて自分は死んでいく。しかし、この作品ではクーパーは既に充分、分別臭い顔が出来上がってしまっているのだ(註)。そこがちょっと、このコメディをシリアスな感じにしていると思う。とは言えゲイリー・クーパーは、永遠の二枚目ではあります。私には。

註:
この作品のスチールではありませんが、
これが分別と忍耐を備えた(ように見え
る)ゲイリー・クーパーの中年の頃の顔。
この作品では、更にもう少し老けています。

監督:ビリィ・ワイルダー
製作:ビリィ・ワイルダー
脚本:ビリィ・ワイルダー
    I・A・L・ダイアモンド
出演:オードリィ・ヘプバーン
    ゲイリー・クーパー
    モーリス・シェバリエ
1957年
アメリカ映画


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