追想 -LE VIEUX FUSIL-

『追想』とという作品は、ここで紹介する作品の他にも、バーグマンとユル・ブリンナーの名作(原題《Anastasia》)がある。しかし、敢えてこっちを先に選んだ。

舞台は第2次世界大戦末期の、ドイツ占領下のフランス。主人公は温厚な外科医ジュリアン(フィリップ・リワレ)。彼には、美しい妻と一人娘がいる。回想シーンでは、妻との出会いの場面が描かれる。太った真面目で純情な男(ノワレ)が、妖艶な女(ロミー・シュナイダー)に誘惑されている。女は、あるしは高級娼婦であるかのような印象を与える。それは定かではないが。

彼は、連合軍の反撃が始まりいよいよ戦争が激しくなったので、愛する妻と娘を田舎に疎開させる。そこは彼が生まれ育った古い大邸宅(むしろ城と呼んだ方がふさわしい)であったのだが、それが災いしてドイツ軍に接収されてしまう。ナチスの兵士たちはジュリアンの美しい妻を火炎放射器でなぶり殺しにし、娘も射殺してしまう。それはゲームを楽しんでいるかに見える。多分、戦況はドイツが相当不利になっている時期であり、追いつめられたドイツ兵たちは既に狂気の中にあったのではないか。ドイツ兵にとって、レジスタンスでもない一般のフランス人は敵ではなかったはずだ。撤退しつつある小隊が犯す悪逆非道な行いは、何もドイツ軍に限った事ではないのだろうが、それはまた別のお話。

ようやく休暇をとって、妻子の疎開先を訪れたジュリアンが見たものは、むごたらしい黒コゲの死体と化した妻と娘の姿であった。彼の悲しみは、やがて怒りと憎しみに変わり、復讐を決意する。手術のメス以外は武器を手にした事もない大人しいポッチャリした男一人で、1小隊を相手に闘おうというのだ。この時点では、観ている私は「何と無謀な・・・彼も殺されてしまうだけの映画なのか?」と思ったのだが、ここからが凄かった。

場所は彼の勝手知ったる古い城であり、兵士達の知らない秘密の抜け道やら小部屋・地下室などがある。それを活用して、彼は闘う。一人ずつ確実に殺していくのだ。そして最後は・・・かなり壮絶なものなのだけれど、それは、これからご覧になる方へのお楽しみにとっておきましょう。

この作品は「戦争」そのものを憎むというよりは、徹底して個人の恨みを晴らす事を描いているように思える。フランスという国が大陸の地続きの中にあって、非戦闘員までが殺戮に巻き込まれた恨みは戦後何十年が経過しようとも忘れられる事なく、こういう映画を作るのだ。日本に於いては原爆症に苦しむ被爆者の人々でもない限り、戦争など忘れてしまっている感がある。話がややこしくなるが、日本が戦争の加害者であるか同時に被害者でもあるかは別として、敗戦と同時に歴史が分断されてしまったかのような日本の場合と違って、古来から多くの戦争に巻き込まれざるを得なかったフランスという国にとっては、日本と違ってかの戦争も大きなカーブのひとつでしかなかったのかも知れないと思った。そういう国だからこその国民性が、いまだ強烈な恨みを描く作品を作らせるのではないか・・・。

それはさておき、近年も大活躍のフィリップ・ノワレ。『イル・ポスティーノ』での亡命詩人といい、『ニューシネマ・パラダイス』の映写技師アルフレードといい、静かな表情の中に人間の魂の重みを感じさせる素晴らしい役者だ。初めて見たのがこの『追想』であったのだが、それ以来の贔屓である。

まだまだ死ぬのは早かった
ですね、ロミー・シュナイダー。
大好きな女優の一人です。

監督:ロベール・アンリコ
製作:ピエール・カロ
原作:ロベール・アンリコ
脚本:パスカル・ジャルダン
出演:フィリップ・ノワレ
    ロミー・シュナイダー
1975年
フランス映画



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