心臓というポンプは、冠状動脈に異常が起こり心臓への酸素、栄養供給が不足するようになると、狭心症や心筋梗塞を引き起こし、心臓の筋肉(略して「心筋」といいます)に重大な障害が起こることになります。
心臓というのは、全身に血液を送り出す左心系(左心房と左心室)と、全身から二酸化炭素や老廃物を受け取って戻ってきた血液を再び肺に送り出す右心系から成り、肺で新鮮な酸素を経て動脈血となった後、再び心臓に戻ってから大動脈を通って全身に供給される・・・という繰り返しを行なっている重要な臓器です。規則正しく収縮と弛緩を繰り返し、血液を絞り出しているのが「心筋」という筋肉である訳です。
この心筋に障害が発生した場合、血行不良や呼吸困難が起こり、結果としてチアノーゼや血栓の形成、後ろ足の麻痺などが起りますが、血管の細い猫に動脈血栓などが発生した場合、死亡率は極めて高いようです。治療法はなく、強心利尿処置による血管拡張などの対処療法しかないのが実情です。
障害を起す原因は、心筋への血液供給がうまくいかなくなることにある場合が多いのですが、血液供給の障害とは無関係に心筋自体が変化し、心筋が極端に厚くなったり、薄くなったりする場合もあります。
こうして生じた心筋の変化で心臓のポンプ機能が落ちると、動悸、息切れ、呼吸困難などの症状が出るようになります。つまりこれが心筋症というもので、心臓を構成する筋肉である心筋に異常がおこり心不全を呈する病気で、命にかかわる重要な病気です。
心筋自体の病気のうち、原因がはっきりしているもの(2次性)と、そうでないもの(特発性)がありますが、とくに原因不明の「特発性」の場合を「心筋症」と呼んでいます。そして「肥大型」「拡張型」「拘束型」の3つに大別されています。
拡張型では心臓が大きくなって内腔が広くなった結果、収縮機能が正常に働かなくなってしまうもので、肥大型では心臓の内腔に向って心筋が厚くなり左心室が狭くなるもの・・・いずれも全身への血液の流出障害を起こす症状です。
心筋症の種類
◆心筋が厚くなる場合
1)肥大型心筋症(註1) 非閉塞型 閉塞型
2)2次性心筋肥大:高血圧症、大動脈弁狭窄症、アミロイド症、ファブリー病など
◆心筋が薄くなる場合
1)拡張型心筋症(註2)
2)2次性心筋障害:心筋炎、心サルコイド症など
◆心筋が硬くなる場合
拘束型心筋症
(註1)肥大型心筋症
肥大型心筋症は心臓のうち左心室が肥大して厚くなり、そのために心不全をおこします。犬においては特に、シェパード種に比較的多く、雄に多いような傾向がありますが、この病気自体の報告数が少ないので詳しいことまで解っていません。
猫では、犬と違い心疾患としてはよくみかける病気のうちの一つです。雌に比べると雄にその発症が多く、若い猫から高齢の猫まで、どの年齢でも発症する傾向があります。特にメインクーン種においては遺伝的な肥大型心筋症が報告されてますので、他の猫種でも遺伝性の可能性はあると考えられていますが、現在のところそこまでの研究は進んでいません。
(註2)拡張型心筋症
拡張型心筋症は心臓のうち心室が拡張して収縮力が低下するために心不全をおこします。犬の場合では特に、ドーベルマン、ボクサー、グレートデン、セントバーナードなどの大型犬に多く発症する傾向があります。また、中型犬ではコッカースパニエルなどスパニエル種に多く見られることも知られています。
雄雌では雄が雌に比べると約4倍も発症する確立が高く、ほとんどどの年齢でも発症しますが、特に4歳から6歳あたりに多い傾向があります。
猫では、アビシニアン、アメリカンショートヘア、ビルマネコ、シャムネコが他の猫に比べて高い率で発症しているようです。 |
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