カワムラさん
助六ばりの色男
Sep. 20, 2007 |
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2007年9月20日 木曜日
やっと彼岸の入り・・・でも暑い。
この真夏のような暑さも、今週一杯の辛抱だ。そう天気予報で言っていた。あと少し・・・あと少しの辛抱。
先日の「血餅」ならぬ卵の黄身入りの「月餅」に反応を戴いたので、その思い出を書こうかな。
長くなると思うけど、思い出しながら書いておこう。
−卵入り月餅の出どころ−
その大きな月餅には、アヒルの卵の黄身が塩漬けされたものが入っていた。
透き通った黄身はネッチリした歯応えで、特に塩辛くも無く、油っこい独特の餡との相性も良く、なかなか美味しかったと記憶している。
あれは13年前の秋に、こうちゃんが勤めていた会社のシンガポールの現地法人に行った時に、あちらのスタッフにお土産で持たされたものだった。
スタッフと言っても、特別な人だったのだが、それはまた後ほど・・・。
−ホンモノの殺人事件発生−
こうちゃんがシンガポールに行ったのは、その会社の社長が社員に殺され、遺族が日本の本社を閉鎖する事にしたものだから、業務整理でシンガポールの現地法人に飛んだのだ。
今年の夏のように異常に暑かった夏・・・そんな真夏の夜に起きた殺人事件。こうちゃんが退社した直後に、社内で起きた殺人事件。こうちゃんがその会社に入って4ヶ月目、明日がボーナスという8月の頭に起きた殺人事件だった。
死因は、十数箇所メッタ刺しにされた事による「失血死」。
真夏の殺人現場で現場検証に立ち会った社員から後に聞いた話では、指紋検出する為の粉末が飛散しないようエアコンを切っていたので、そこかしこに飛び散った血や肉片の腐った臭いで吐き気がしたという。
現場は事務所内。
もの盗りの犯行に見せる偽装工作がされていたらしいけれど、解雇を言い渡された社員の怨恨が動機の、計画的な犯行だった。
−殺人の動機は本当に動機足り得るのか?−
怨恨が殺人の動機になる事はよくある事なのかも知れないが、何故自分や相手、そして双方の家族の将来までメチャクチャにしてしまうというのに、わざわざ殺人まで?と不思議で仕方ない。
これは理屈ではなく、どんなに恨んでいる相手であろうと、殺すとなるとそれを実行するには普通の神経ではとても出来ない、恐怖にも似た感情の大きな壁があると思うから。
そこには「狂気」が介在しないと到底出来ない事なのではないかと、あの時強く思ったし、今でも私はそう感じている。
殺してやりたい程憎いという事と、実際に殺すという事の間には、物凄い距離があるはずなのだ。
私にだって憎しみの感情はあるし、あんなヤツは死んでしまえば良いと思った事も一度ならずある。
でも実際に誰かの命を奪う等という事は、恐ろしくてとても出来ないし、自分の人生と引き換えにしてまで誰かを殺さなければならない程の怨恨というものを、幸いにして持った事が無い。
「解雇」程度で殺人は有り得ないと思ったのだが、そこには色々と複雑な背景もあった事が、裁判で次第に明らかになって行った。
犯人と被害者は、かつては同じ学校で学んだ友人であったものが、別々の道を歩んで歳月が過ぎ、50歳も過ぎて失業していた犯人は、会社社長になっていた被害者に拾われるようにして社員となった。
しかし犯人に任せられる仕事は少なく、取り引きに不利になるような失敗を重ねていた犯人は、遂に解雇を言い渡された。それまでの年月に、お互いの間にはどんな感情があったのだろう。
同級生で仲が良かった間柄の二人が年老いてから主従関係になるという事に於いては、仕方の無い結果とは言え、かなり屈辱や嫉妬を感じたりはしないだろうか。
被害者の社長はシンガポールには現地妻がいて、その女性に現地法人を任せていた事も解かった。きちんと教会で式を挙げて結婚していたと言う。重婚か。
日本にいる妻も外国人で、15歳になる立派な息子もいるのに、会社の資産をシンガポールにどんどん移しており、いずれは日本の会社は畳むつもりでいたらしい。
裁判では、犯人だけじゃなく被害者も文字通り「丸裸」にされてしまう。
−犯行翌日、長い1日のはじまりはじまり−
殺人事件の第一発見者は朝早くに出社した犯人で、彼が警察に通報していた。
こうちゃんが出社した時には既に警察が来ており、会社には入れて貰えず、社員は全員そのまま担当の警察署に連れて行かれて、深夜まで事情聴取された。
私が事件を知ったのは、その日の昼過ぎだった。
私が当時勤めていた会社に、軽井沢に避暑に行っている舅から珍しく電話が入り、「こうちゃんの会社の社長が殺されたぞ」と聞かされたのだ。
「そんな事有り得ないですよ〜、今朝もちゃんと出社していますよ」と笑って応えたところ、「昼のニュースでやっていたから間違いない」と言う。
急いでこうちゃんの会社の所轄の警察署を調べて電話すると、果たしてその事件は存在していた。
電話に出た刑事さんに「主人を電話に出して貰えませんか?」とお願いしたら、それは出来ないので、後でご主人に電話して戴くようにしますと言う。
「どうして主人に代わって貰えないんですか?」と食い下がると、ご主人は第一発見者で重要参考人ですから・・・と言った。これを聞いて物凄く心配になったけれど、兎に角電話を待った。
10分もしないでこうちゃんから電話が入り、私は真っ先に聞いた。
「第一発見者なの?」と。
すると「違うよ、もう警察は来ていたんだから」と言う。
「容疑者扱いされているの?」「いや、それは無い」
どうもあまり話していられない雰囲気だったので、兎に角、早く終わって帰れるといいね・・・また連絡してね・・・と言って電話を切る。
そして、直ぐに私から再度、その警察に電話を入れた。
「この事件の責任者の方をお願いします」と言うと、穏やかそうな声の男性が電話口に出て来た。この事件担当の警部さんらしい。
そこでガッチリ文句を言ってみた。
それもどうかとは思ったが、相手は公僕であり公権力を持つ「強者」である。手加減は不要だ。
−うるさくてしつこいクレーマー奥さん−
「先ほど電話に出た方は、主人が第一発見者だと言いましたけど、違うようですね。あんな事を言われたら、家族はどれだけ心配するか解かりますか?どうしてそんないい加減な事を言うんですか?そういう事で良いと思います?」と一気にまくしたてた。
その警部は丁寧に謝ってくれたので、まあ許してやったさ。
それから時間は経過して、私は残業もして帰宅し、晩ご飯の下ごしらえをして待つが、一向にこうちゃんは帰って来ない。
そこでまた警察署に電話をする。だって心配じゃん。何がどうなっているのだ。そしてどんな扱いをされているのだ。大事なこうちゃんが・・・
電話して自分が誰であるかを告げると、直ぐにさっきの警部に代わった。
「いつまで引き止められるんですか?容疑者でもないのに・・・。晩ご飯はちゃんと食べさせて貰えたんでしょうねえ?」と、小さな息子に対する過保護な母親じゃあるまいに、とりふえず思いつく限り言ってみる。
警部さんは、ご主人にご自宅にお電話して貰いますから・・・と丁寧に詫びていた。
そして間もなく、こうちゃんから電話が入る。まだ少し掛かりそうだと言う。
少しってどれ位よ?と思ったけれど、こうちゃんが悪い訳ではないので、それは言わない。あんまりにも遅くなるようであれば、再度また私から警察に電話をして文句を言ってやろう。うん、そうしよう。
後で聞いたところでは、警部さんは取調室のこうちゃんのところに行くと、「奥さんが電話で凄く怒っていらっしゃるので、今直ぐお宅に電話して下さい」と伝えたそうだ。けけけ。
そして深夜の12時も過ぎ、まだ帰って来ないので、またしても奥さんは警察に怒って電話をする。
「一体、帰らせて貰えるんですか、どうなんですか?もう終電に近いし、うちは駅から遠いし、終バスは終わっちゃいましたよ。どうやって帰ってくるというんですか?」
「刑事さんと違って、うちは規則正しい生活をしているんです。朝は4時半に起きるから、いつもだったらもう寝る時間なんです」と細かい事で文句を言ってみる。
うわ〜、迷惑な奥さんだなあ・・・と自分でも思う。
でも、兎に角不安で仕方なかった。殺人事件だよ、事は。
一体どうなってしまうのだろう、こうちゃんに電話をさせて貰ってもあまり詳しく喋れないような雰囲気だし、心配しないでと言うだけで、事件の事は何一つ伝わって来ないのだから(それも当然なのだが)・・・
−こうちゃん解放、そして爽やかな捜査一課の某刑事−
こうちゃんが帰って来たのは、午前1時半頃だった。
2階に上がって来たこうちゃんが、「刑事さんが奥さんにお詫びを申し上げたいって言ってるから、玄関まで来て」と言う。
「え〜っ、もうお風呂にも入っちゃったし、髪が濡れているのに、いちいちめんどくさいな〜」とブツクサ言いながら重たいミュウちゃんを抱いたまま玄関に向かった。
ミュウは抱いてさえいれば全く暴れないし、私の腕から下りようとしない猫だったので、いかにも「可愛い猫と共に夫を心配して待っていたんですよ」という雰囲気を演出しながら(でも事実だし・・・)、玄関の内側で待っていた刑事さんに対面した。
すると、その刑事さんはとても爽やかな、私より少し歳若い好青年で、とても礼儀正しく、ブスッとした顔で出た私は、ちょっと恥ずかしかった。
どうやら、この刑事さんに車で送って貰えたらしい。
それならそうと「今からご主人をお車でお送りします」と電話でも寄越せよ・・・とは言わなかったのだが。一人で家で待つ新婚の妻は、どれだけ心配していた事か。
そして、その刑事さんとこの日から長いお付き合いになるとは、この時点では予想していなかった。
−犯人自白、しかし長引く事情聴取、そして不謹慎だけどちょっとだけ楽しい非日常−
翌朝、その素敵な刑事さんは朝早くうちに来て、昨夜、犯人が自白しました・・・と開口一番で言った。
そして警察署は遠いし、出掛けるのも暑いでしょうからと、刑事さんが我が家まで通って来てくれての連日の事情聴取が始まった。
ダイニングのテーブルに広げられた大学ノートにびっしりと書かれていく、犯人の供述の裏付けを取る為の細かい事柄の記憶。
この日、犯人は尾道の出張先で出刃包丁を買ったと供述していますが、確かにその日に新任は尾道に出張していましたか?等という質問が続く。
記憶って当てにならないものだな・・・とつくづく感じた。数ヶ月前の事でも、業務日誌でもつけていない限り、日時を特定出来る程には覚えちゃいないものだ。
そんな時に役立ったのが、私の日記だった。
その日、東伊豆から活け伊勢エビが2匹届いていた。初めての体験だったので、怖くて半分泣きながら刺身に造っていたら電話が鳴ったのだ。
出ると、犯人(その当時はまだ殺人犯ではなかったのだが)からこうちゃん宛てだった。出張先の尾道のホテルからだという事で、その日の業務についての報告と愚痴を聞かされたらしい。
「もうお造りが出来ているんだから、電話を早く切り上げてね」とジェスチャー混じりのサインを送った。
そんな事が当時毎日手書きで書いていた「10年日記」記されていたのだ。
勿論、ホテルでも宿泊の記録を調べるだろうし、包丁を買った店でも裏付けを取るので、この私の日記が無くても、こうちゃんの記憶から抜けていても、支障は無かったのだろうと思う。
しかし、そうやってすべての関係者から、事細かに供述の裏付けを取るのだという事を知った。
何日も通って来るうちに、真っさらだった大学ノートは、細かい文字でびっしりと埋め尽くされて行った。途中、別の聴取の為に出掛けて行って、またうちに戻って来る事もあった。
刑事さんの仕事は、かくも事務仕事が多いものかと驚いた。
私は時分どきともなると、二人の為にご飯を用意した。カレーだったり、おにぎりだったり。
刑事さんには小さい子供がいて、だから家のカレーは辛くないのだと言い、本当は辛いカレーが好きなので嬉しいと言ってお代わりをしてくれた。
それじゃあ次は、ユッケジャンクッパにしましょうか・・・と言っていたのに、もう聴取は終わってしまって、その刑事さんがうちまで来る事は無くなってしまった。
良い人だったね・・・と後年何度も思い出しては、こうちゃんと話した。
あの刑事さんだったが為に、あの恐ろしい事件の後の暗く重たい気分が、ほんのちょっと救われた気がする。
その時に「巡査長」だったその刑事さんは、今では「警部」となっている。事件とは関係無しに、もう一度会いたい。そしてユッケジャンクッパを作ってご馳走したい。
−そして月餅の思い出ふたたび、と共に歯は大事−
中秋の名月が近づくと、あの時の月餅を思い出し、そして月餅と聞くとあの殺人事件を思い出す。
犯人に下された刑は懲役11年。模範囚だったらもっと早く出て来るだろうと聞いた。とっくに社会復帰しているはずの犯人。
事件の直後に一家は離散したと聞いたけれど、牢獄から出て来た夫を妻は迎えたのだろうか。どうでも良いような事だけれど、人生の終わりに近づいて、家族がバラバラになるのは寂しい。
貧しくとも家族身を寄せ合って同じ家に住み、同じものを食べ、同じ苦労が出来る歓びを噛み締める。
幸せを噛み締める事が出来る歯を大事にしよう。これ以上、1本たりとも失わずに済むよう頑張ろう。
しかし私の場合、その「噛み締め」が原因で顎の骨の吸収が激しいらしいのだが・・・幸せ過ぎるって事?
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